半端ない!笈川式日本語合宿授業潜入記①

投稿者: | 2018年7月25日

はじまりは4月におこなわれた、このオンライン勉強会でした。

オンライン日本語教師学び場

ここで国際交流基金・村上先生による「EDキャンプ」というものの講義を聞いていたんですが、グループでの話し合いになった時に偶然笈川幸司先生と同じ組になりました(愛弟子の崔文超先生もいらっしゃいました)。もともと笈川先生のことは「中国のカリスマ日本語教師」ということで一方的に存じ上げていたのですが、まさか同じグループになるとは夢にも思わず恐縮してしまいました。

これだけ有名で実績があれば横柄になったりもするものですが、笈川先生も崔先生も非常に腰が低く、気さくで、短いディスカッションでしたが一気にファンになってしまいました(ちなみにオンラインでちゃんと活躍されている方はどの方も丁寧で親切です)。また、驚くことに、その翌日だったか、笈川先生から直々に友達申請が届いたのです。申請を承諾するとメッセージまで!ほんと恐縮しました。

そして極めつけがこの記事。

中国の若者を惹き付ける「カリスマ日本語教師」の熱血人生(外部)

この記事によると夏と冬に一大イベントである合宿授業があるとのことで、矢も盾もたまらず笈川先生に連絡して「授業を見学させてください!」とお願いしたのでした。そして今北京でおこなわれている日本語合宿授業に2日間だけ参加させてもらうことになったのです!

以下、その合宿授業の見学を通して私が学んだことを、数回に分けて書いて行こうと思います。

※もちろんこれは私が見学者として見たこと・聞いたことを綴るものです。授業内容についての記述はすべて私の個人的解釈によるものであり、そのメソッドや方法論を公式的に解説するものではありません。

概要

2018年の夏は北京と紹興という都市で合宿授業が行われます。それぞれ参加する受講生の数は200人前後だそうです。

私が参加したのは北京での合宿授業なので、ここでのことのみ書きます。男女比は北京では1対3くらいでしょうか、女子学生が多いです。全国各地から集まったすべての受講生は10人部屋ほどの大部屋に宿泊し、併設されている食堂で共に食事をします。受講生の大半は大学生のようですが、中には既に大学を卒業した人や、日本の企業に務めているなどという人もいました。また、中国人学生の他に、日本人留学生や日本人日本語教師なども参加しています(私もこの枠です)。

参加学生のうち20人ほどは「超級」の学生で、基本的には他の一般学生とは違う部屋でレベルの高い授業を受けます。

合宿は10日にわたっておこなわれます。午前中3時間、午後3時間の公式授業がメインですが、その他にも希望者だけの補習的な授業・勉強会などもおこなわれていました。

授業はこのような体育館のような広い場所でおこなわれます。

笈川絶密教科書

まず、初日にこの本をもらいました。

まず、タイトルに圧倒されました。ページ数は300弱です。内容は「絶密」なのであまりペラペラしゃべることはできませんが、とにかく大量の日本語の文章とその中国語訳が書かれています。授業はこれがないと始まりません。笈川メソッドにおけるバイブルのようなものでしょう。

朗読

授業の中心は「朗読」と呼ばれるものです。これが笈川式日本語授業の肝になっているようです。しかし普通我々が想像する「朗読」とは少々違います。

誤解を恐れず言いますと、笈川式の朗読は同じセンテンスを4回繰り返して言う、というものです。例えば「意見、感想の言い方」を学ぶときには、絶密教科書に書かれている「ご指名いただき、ありがとうございます。」「印象的だった部分を読み上げます。どうぞ、聞いてください。」といったような日本語表現を4回繰り返して言うのです。

まずは先生が一回言い、それに続けて先生と学生が4回声を合わせて読み上げるのです。

先生「ご指名いただき、ありがとうございます。」

先生&学生「ご指名いただき、ありがとうございます。」
                   「ご指名いただき、ありがとうございます。」
                   「ご指名いただき、ありがとうございます。」
「ご指名いただき、ありがとうございます。」

それだけです。。。。え!!!そうなんです、これだけなんです。でも、読み上げる量が半端ありません。この活動を30分間とか平気で続けるのです。手を抜く学生なんかいません。そして先生などは全く疲れた素振りも見せず、よく通るいい声で学生よりも各センテンス一回多く、読み上げ続けるのです。ほんと死にます、これは。私などズルもしましたけど、30分ほどの朗読でげっそりしました。

もちろんただひたすら読み上げるだけではなく、随所に発音のポイントも指摘したりします。よく指摘していたのはアクセントやイントネーションの部分と、あとは「口を大きく開けない」という点でした(これについては別でまた詳説します)。

続いて笈川メソッドのキーワードになりそうなのが「型」です。どういうものかというと、例えば「好きな食べものは何ですか」という設問に答える場面での練習です。

型①「ご質問、ありがとうございます。好きな食べものはカレーライスです。以上です。どうもありがとうございました。」

これを朗読練習します。それが終わると型②へ進みます。

型②「ご質問、ありがとうございます。好きな食べものはカレーライスです。もちろんお寿司も好きです。しかし、一番好きな食べものはカレーライスです。以上です。どうもありがとうございました。

その次には型③、型④…と進んでいき、最終的には「なぜその食べ物が好きか?」「その食べ物に関する個人的エピソードにはどんなものがあるか」ということまで話す「型」にまでたどり着きます。

それをひたすら上記の方法で「朗読」するわけです。

これの効果は絶大です。正規の授業とは別に日本人留学生を対象とした中国語の授業もあるんですが(他の先生が担当)、ここでも型の朗読をするんですね。私は中国語は全くできませんが、この朗読をやってみたくて一度だけ参加しました。最終的にたった10分ほどの授業で、

谢谢你的提问。我喜欢的食物是咖喱饭。
(ご質問ありがとうございます。私の好きな食べものはカレーライスです。)

という中国語を淀みなく言えるようになりました。

「型」というと空手、茶道、能などが思い浮かびます。これ退屈そうに見えるんですが、こういう武道や伝統芸能では型が最も大事です。合気道をやっている人が言っていましたが、「考えてから動いては遅い」んだそうです。徹底した反復練習を通して、考えるよりも前に体が動くように型を習得しておく必要があるのだそうです。

音楽でも、以前オーディション番組で審査員の一人が言っていましたが、ギターの弾き語りをしていた参加者に対して、「ギターの演奏が体の一部になるまでは弾き語りはするな」と言っていました。これも型ですよね。コードやその他もろもろに関して自然に体が動くようにならないと高いレベルでは使い物にならないということでしょう。

語学教育の分野では、「オーディオリンガルメソッド」に近いものがあるでしょう。基本のセンテンスがあります。教師はキューと呼ばれる単語や語句を提示して、間髪をいれず学習者はそのキューを入れたセンテンスを完成させる、というようなものです。徹底した反復練習で、自動的に言葉が出るようになるまで練習する。これは昔流行りましたが、最近やっている人はあまり見ませんね。

会話練習

型の朗読による徹底した反復練習をおこなった後は会話練習です。これが笈川メソッドを用いた授業のハイライトでしょうか。

型はあくまでも型です。それぞれが好きな食べものは「カレーライス」ではありませんし、好きな食べものにまつわるエピソードも学習者それぞれ違います。それぞれが好きな食べ物を言い、それぞれがエピソードを話せるようになって初めて話せるようになったと言えるわけです。「型を踏まえた上で、自分個人のことをしゃべる」これが会話練習ということですが、やり方がユニークです。

①全員その場に立ち、自由に動く。
②会話パートナーを見つける。
③自己紹介を簡単にした後、握手をする。
④握手をしたまま、その「型を意識して個人のことを話す」
⑤ふたりとも終わったら、絶密教科書に相手の名前を書いてもらう

その時々によって「5人と話してください」「3人と話してください」という風に変えていましたが、やり方は大体同じです。

ポイントは「握手をする」「名前を書いてもらう」というところでしょう。握手をしながら話すなんて、皆さんやったことありますか。少なくとも挨拶以外では私はありません。

握手をしながら話すと、本当に緊張するんです。でも話す方も聞く方も集中力が上がります。「この人に自分のことを伝えたい」「この人の言うことを理解したい」そんな気持ちになります。それはコミュニケーションの原点じゃないでしょうか。言葉を話すことは、ただ意味を伝達することじゃない、相手を理解し、相手に理解してもらうことだ、ということがこの握手をすることによって自然と理解できるようになるのです。

最後に名前を書いてもらう(上の絶密教科書の写真に中国人学生の名前が書いてあるのが見えます)、というのはいろいろな意味があると思いますが、私の解釈では「意思疎通をした証を形に残す」ということではないかと思います。

今私はその教科書に書かれた名前を見ていますが、「ああ、おれはこの中国の学生たちと本当に話し合ったのだ」ということをしみじみと思うことができます。名前を見ても顔が思い出せない相手もいますが、ここに書かれた名前は自分が日本語で話したこと、お互いわかり合おうとしたことを確実に証明してくれているわけです。これだけでグッときます。

またそういった感情的な面だけでなく、実利的な面もあるでしょう。10日間の合宿が終わって教科書に書かれた数多くの仲間や先生たちの名前を目にします。それは自分が日本語で話した回数の証明でもあります。これだけ多くの人とさまざまなテーマについて話したんだ。その回数や時間の長さが自分の日本語能力への自信へとつながるのは確かです。

半端ない!合宿授業

ここまで「私が見た笈川メソッドの要諦」について書いてみました。上でも述べましたが、これは私が一観察者として感じたことをまとめただけです。御本人である笈川先生やその側近の方々が見れば「それは違う」ということもありえますのでご了承ください。

笈川メソッドを一言で言うと、半端ない!でしょうか。朗読を基本とした型の練習などは、上でも述べましたが、それほど斬新なものでもありません。でもその反復回数であるとか、時間の長さ、テンポの良さなどは、他の教師が他の現場で真似をすることなどは到底不可能です。少なくとも私は無理です。

その笈川メソッドの根底にあるのは「朗読練習」という活動に対する強い自信でしょうか。それは数多くの経験と音声学の知識に裏づけされた、本当に強固なものであると感じます。

ただ、ここでご紹介したものは、笈川メソッドの上っ面に過ぎません。実はこの「上っ面」以上に、さまざまな「しかけ」があるのです!その「しかけ」なくしては笈川メソッドもありません。

ですが、長くなったので、この「しかけ」や「その他の周辺事項」については次の記事

半端ない!笈川式日本語合宿授業潜入記②

半端ない!笈川式日本語合宿授業潜入記①」への10件のフィードバック

  1. 笈川幸司

    〉笈川メソッドを一言で言うと、半端ない!でしょうか。朗読を基本とした型の練習などは、上でも述べましたが、それほど斬新なものでもありません。でもその反復回数であるとか、時間の長さ、テンポの良さなどは、他の教師が他の現場で真似をすることなどは到底不可能です。少なくとも私は無理です。

    反復回数は、ひとつのセンテンスを10回読みたいところですが、実現できていません。時間の長さですが、長時間、ある程度集中力を落とさずにやり続ける方法がありますので、いくつか注意する点をマスターできれば、実現可能です。実は、普段の朗読は、崔さん、汪さん、奈弥さんに任せていて、わたしが朗読したのは久しぶりのことなんです。

    返信
    1. shirogb250 投稿作成者

      コメントありがとうございます。

      ひとつのセンテンスを10回!これはすごいですね~

      なるほど、集中力を落とさずやり続ける「方法」「ノウハウ」があるということですね~
      疲れた素振り一つ見せない皆さんの体力や集中力には頭が上がりません!

      返信
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