半端ない!笈川式日本語合宿授業潜入記②

投稿者: | 2018年7月26日

半端ない!笈川式日本語合宿授業潜入記①からの続きです。

前回の記事では「型の朗読」から「会話練習」まで、つまり笈川メソッドの中心であろうと思しき部分について書きました。ただ、一つ疑問が生じてくるんですよね。

「学生たちはどういう思いでこれをやっているんだろう?」という部分です。というのは、少なくとも私が韓国の大学でやっている授業で「じゃあ今から朗読30分やります」と言って実践したら、確実に死にます(教師生命が絶たれます)。ていうか、誰もついてこないと思うんですよね。でも、目の前にいる中国の学生たちは「嬉々として」朗読をやっているように見えます。

それを笈川先生の奥様である笈川奈弥先生に聞いてみました。すると、

「学生はねえ、朗読嫌がるんですよ。」

ええええええ~どういうこと~嫌いなのに全国各地から汽車に数十時間揺られつつ、授業料を自腹で払って、朗読をしに来ている??

まあ、この合宿に来ている学生たちは中国の学生の中でも真面目な部類に入るでしょう。日本語が上手になりたい!という目的を達成するためには多少の努力は致し方ない…そう考えているのかもしれません。しかし、それでは理解できないことがあります。それは笈川先生のFacebookでの投稿を見ていると、学級崩壊している高校なんかでも授業をしているようですし、いつも今回の合宿授業のようにモチベーションが高い学生を相手にしているわけではないようなんです。

佐久間    「じゃあ、そういった授業では朗読とは違った活動をするんですか?」
奈弥先生「いいえ、基本は同じです」

えええええええ~どういうこと~スクールウォーズ並みの廊下をバイクが走っているような高校でどうやって朗読させるんですか!!!(↓写真はイメージです)

そうなんです。どうやら授業する場所が変わっても、「朗読」「型」といった根幹は変わらないようなんです。ただ、変わるのはそこに至るまでの導入、つまり朗読の意義を感じさせ「朗読をしよう!」と学生たちに思わせるような「しかけ」なんですね。スクールウォーズ高校では「教室の机を全部どけさせたり…」「学生の話を聞いてあげたり…」「罰ゲームをさせたり…」ということをしながら朗読に対するモチベーションを上げていかれたそうです。

ただ、そこは私の見たところではありませんので、ここから先は、今回の合宿授業において私が見た、朗読へのモチベーションを上げるためのいくつかの「しかけ」について紹介していこうと思います。

多様なコンテンツ

合宿期間中、ただひたすら朗読&会話練習を続けるわけではありません。ご飯を食べ終わって午後の授業が始まる時とか集中力が切れそうなタイミングでそれ以外の活動が入ります。私が見たのは歌とダンスです。

特に特別なことがあるわけではなく、日本で近年ヒットした「海の声」といった歌や「逃げ恥」のダンスを歌ったり踊ったりするだけです。最初は歌を聞いてみて、次に歌ってみて…という感じです。ダンスはいきなり踊るのは難しいので、ダンスを解説した動画を見ながら一つ一つ練習していきます。

なんてことはないんですが、結構気持ちのいいものなんですこれが。まず朗読は「勉強である」という意識が強いと思いますが、これらの歌やダンスは「お遊び」なんですよね。朗読はちゃんとできないと、後で会話練習の時に自分が困ったりしますけど歌やダンスは困りません。できたらうれしいし、できなくてもそれはそれで構いません。だからのびのびと体が使えて、朗読や会話練習に自然に移行できるような「準備体操」になります。

あと、これが大事なんですが、歌にしてもダンスにしても学生を舞台に上げるんですね。もちろん「歌いたい人、踊りたい人前に出てきてください!」と言ったところで自発的に出てくる学生は少数です。だから無理やり上げるんです。その無理やり舞台に上げるプロの先生もいまして(このことについてはまた別で書きます)、無理に連れて舞台に上げるんですが、学生としては「わ~どうしよ~いや~」と言いながらもその空気を楽しんでいるような感じです。

私なんかも人前に出て歌や踊りを見せるようなタイプではないのですが、最後のあたりでは「おもしろそうだな、舞台に上がってみようか」と考えたりもしました(でも立場的には一歩引いていたほうがいいかな、と思ってやめましたが)。おそらく、予測ですが、合宿最終日くらいになると、自発的に出てくる学生がほとんどになるんではないかと思います。

そう、この歌や踊りの効果というのは、それ自体がリラックスできるということもあるんですが、「舞台慣れをする」というところにあるのではないかと思います。学生は俳優ではないのに舞台慣れをする必要があるのか?と思うかもしれませんが、「外国語で話す」というのはある意味「舞台に上がる」というのと同じです。人前で失敗したらどうしよう、人前でうまく話せるかな、そういう部分を克服してこそ、真の上達があるでしょう。

ジャンプ!!

これは授業に取り入れたい!(しかも取り入れられそう!)と思ったのがこの「ジャンプ」です。

例えば、授業が終わりそうだな~という段階で学生たちが疲労困憊、だらっとしている、そういう場面を想像してください。すると、こういう指示が出るんですね。

「皆さん、立ってください、そしてその場で1分間ジャンプします!」

ええええええ~なにそれ~みんなその場で跳ね始めます。・・・疲れます。でもね、なんかね、楽しくなってくるんですよ。飛び跳ねている横の学生とにっこり笑みを交わしたりして。・・・しかし、ジャンプだけしているときの1分ってほんとに長いんですよ。「あと30秒!」とか言うんですけど、ええ~まだ半分残っているの???という。

しかし終わったあとは息が上がりつつも、なんだか達成感があります。何なんだろう、こんなの初めて…と思ってまたもや他の先生に聞いてみたところ、

「細胞を活性化させる効果がある。」

…とのことです。よくわかりませんが、気分転換や雰囲気転換にはもってこいの活動?ですね。ちなみに初日は1分で、2日目は2分でした。私は2日で帰ってきたのでその後はわかりませんが、もしかして3日目は3分??最終日の10日目には…

オン・オフの切り替え

これも、上のジャンプの近いものがあると思いますが、「ダラダラしない、させない」やり方の一つでしょう。毎回午前・午後の授業が終わる時に儀式のように同じような動きや挨拶をします。これができないと授業が終わらないんです。

まず、前にいる笈川先生が「みなさんの周りに日本人の先生、留学生、スタッフの人がいないか探してください。」と促します。その後で、

先生「では、挨拶をしましょう。今日も1日ありがとうございました。」
学生「今日も1日ありがとうございました。」
先生「皆さん、お疲れ様でした」
学生「幸司さん(笈川先生のこと)、今日も1日ありがとうございました。」
先生「皆さん、明日もまたがんばってください」
学生「はい、がんばります!」

という、「お決まり」のやり取りをするんですが、これがバシッと決まらないと「もう一回やりましょう」ということになります。疲れている学生は早く解散したくてたまりませんから、2回目、3回目にはこれがビシッと決まることなります。笈川先生が「はい、解散です」という言葉が出たときは「ヤッター」となるんですね。

私は以前陸上自衛隊にいたことがあるんですが、こういうことがよくありました。生活に慣れてきたり疲れたりすると点呼のときとかでもダラーっとなるんですね。それでグダグダしているとなかなか解散させてもらえません。そこで自衛隊では「お仕置き」が入ります(笑)腕立て伏せの姿勢30分とかほんと死にますよ。小銃を持った腕を10分間前方に伸ばして地面と水平に持ち上げておくとか(笑)。もちろんその「お仕置き」の後はシャッ!とします。中だるみはこれ一つで解消されます。

もちろん日本語合宿授業ではお仕置きはありませんが、ダラッとした雰囲気は教師・学生どちらにとっても意味がありません。特に最初と終わりでちゃんと勉強に適した空気を作っておくことは必要なことです。

数々のノウハウ

また、そういった「雰囲気や気持ちを作るしかけ」だけではなく、語学教育理論に根ざした技術的なノウハウもたくさん出てきます。

●口を大きく開けない

授業では、たびたび「口を大きく開けるな」ということが指摘されます。これは中国語母語話者の特徴なのかもしれませんが、日本語を話す時も一音一音大きく口を開けて、はっきりと発音するようにしてしまい、いわゆる「ワタシ チュウゴクジン アルヨ」というような典型的な中国人の日本語になってしまうんですね(度々笈川先生が悪い例として「中国人の日本語」のマネをするんですが、本当にその真似が上手いです)。

で、それを防ぐために、「「イ」の音を出すときのように口を横に開いた状態で話すようにしなさい」と指導していました(このへんは全部中国語だったので私の推測です)。こういう指導が入ると、ただ朗読をするのとはちょっと違って、学生の立場では「気をつける」ことができるんですね。漫然と朗読をしている中に「気をつける」ポイントが入ると当然集中力が高まります

また、口を大きく開けないで話す練習として、「紙を噛みながら日本語を話す練習」を推奨していました。大きく口を開けると紙が口から落ちてしまいます。この癖がつくと、より自然な日本語らしい発話ができるようになるということでしょう。

●下がる箇所と軽声の表示

↓の写真は「絶密教科書」の中にある箇所です。

これも朗読をするセンテンスなんですが、ひらがな表記の上に記号がついているのがわかります。鍵括弧的な記号の方は、日本語教育関係者なら誰でもわかるでしょう。どこで下にさがるかを示したものです。でも○は?これも聞いてみたところ、中国語の軽声に近いということを表示するもの、ということでした。軽声??WIKIPEDIAによると、

軽声(けいせい)とは中国語における連音変化の一つ。単語や文のなかで音節の声調が失われ弱く短い音になることをいう。

だそうです。よくわかりませんが、中国人の学生がこれら見たら、その指し示す意味は理解できるそうです。

これも「口を大きく開けない」という指摘と同じですね。こういう「気をつける点」があると、朗読の集中力が上がるのは間違いありません。

●時間をちゃんと測る

よく「2分で考えてください」「3分後に始めます」というような指示が出ます。その指示自体は特に珍しいものではありませんが、授業を受けながら気づいたのは笈川先生らはちゃんと時間をスマホか何かで測って、時間になった時のアラーム音をしっかりマイクに拾わせているんです。

私も授業でじゃあ「5分くらいでやってみて」とかいうことがありますが、そのへんはテキトーです。「じゃあ、そろそろ5分たったかな~始めようか」的な。みなさんもそうじゃないでしょうか。笈川メソッドではちゃんと時間を測り、その終了時刻をしっかりと学生たちに認識させ、ダラダラさせないようにしているようです。

200人にものぼる学生に効率よく指示を与えようとすると、ダラダラしないようにするのは必須事項です。そういう姿勢を見せると、活動にもメリハリができ、学生の方も「先生が3分と言ったら本当に3分しかくれないんだな」という認識にいたり、その教師が作った枠に合わせて動くようになります

まとめ

…以上、活動の中心である朗読を下支えするための数々の「しかけ」について見てきました。モチベーションを高め、集中力を上げるための「しかけ」が随所に散りばめられていることがおわかりになるかと思います。

ただ、何度も申し上げますが、私の観察が全て正しいわけでもありません。私が見過ごした部分もあると思います。

この次にはその朗読活動やそれをおこなうための「しかけ」を支える教師チームのことについて触れようかと思います。これまで笈川先生、笈川先生とばかり言ってきましたが、この合宿授業はその他数名の有能な教師のプロの仕事に支えられています

今日からちょっと日本遠征がありまして、まとまった時間がとれないため次回の更新までちょっと間があくと思いますが、こちらもぜひとも読んでください!

続きはこちら↓

半端ない!笈川式日本語合宿授業潜入記③

 

半端ない!笈川式日本語合宿授業潜入記②」への4件のフィードバック

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