【レビュー】『留学生の見た漢字の世界』

投稿者: | 2018年9月15日

追記:2018年11月2日

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私の現在の主戦場は「韓国の大学の教養科目としての日本語」です。授業の目標にはいろいろありますが、一番大きなものは「日本語、ひいては外国語学習に興味をもってもらう」ということです。

「外国語の学習というのは君たちが中高で受けて来た無味乾燥した受験英語学習とは違うんだよ」というメッセージを込めて、とにかく面白さ・やさしさを優先させます(もちろん「面白い」というのはゲラゲラ笑う面白さとは違います)。

そうしたことから「漢字は授業で扱わない」という方針を立てています(この辺は賛否両論ありますが)。近年は韓国でも漢字教育が義務教育でおこなわれていないらしく、漢字に拒否感を感じる学生も少なくないからです。日本語をある程度のレベルで読み書きするためには漢字は避けて通れません。でも、その入口から拒否反応を示す可能性が高い漢字を積極的に取り扱っていく必要はないのではないか、まずは「日本語はおもしろいんだよ、やさしいんだよ」ということで学習者を惹きつけていきたいと思うのです。

しかし、教養日本語のレベルを超えて日本語を学習しようという学生から受ける質問の中で一番多いものは「漢字どうやって覚えたらいいですか??」であり、日本語学習の中で最も悩ましいのが「漢字!」なんです。

ですから、私自身はあんまり漢字と正面から向き合ったことがないのですが、漢字学習に関する本はちょくちょく購入し、読んできました。今回ご紹介するこの本も、漢字教育ど真ん中!の本です。

読ませる三部構成

第一部 漢字学習と創造性をめぐって
第二部 留学生の見た漢字の世界<作品集>
第三部 漢字学習の実践と理論

第一部は導入的な部分です。編著者として3名(林さと子氏・関麻由美氏・齋藤伸子氏)が上げられていますが、この編著者同士の対談です(編著者として上げられているのはこのお三方ですが、執筆者には鈴木理子氏も上げられています)。

第二部は本書の中心コンテンツである「今週の漢字」の授業で学習者らが書いた美しくてかわいい漢字の作品集を目で楽しめます。

第三部は漢字教育に関する専門的な論文が五本掲載されています。もちろん第二部までの流れを汲んだ論文で、「今週の漢字」を中心に漢字教育のあれこれについての深い洞察を読むことができます。

各部については後に概観しますが、この3部構成が非常に心憎いというか考えてあるな~と思わせてくれるんですね。

まず対談で読み手の期待を盛り上げる。その期待感の中で第二部の作品集を見ると、読み手はほとんどやられてしまいます(私はやられました)。そしてその後にガッツリとした論文が5本。

もしこの論文集が前の方にあったら全部読めたかどうか自信がありません。普通にガッツリしていますから。でもとにかく作品集が面白いので、「授業の進め方はだいたい想像がつくが、細かいところももっと知りたい!」と思ってガッツリした論文も一気に読めるのです!全体読んだ後で考えると、なかなか構成考えたな!と思うはずです。

ほっこりする「今週の漢字」作品集

第二部の学習者による作品集が本書の見どころの一つになるでしょう。

その前に「今週の漢字」って何?ということになろうかと思いますので私の理解で説明しときます。

「学習者が日常生活の中で出会った漢字を含む言葉をクラスで発表しあい、情報交換する」というもの。授業での手順としては以下の通り。

①学習者は漢字を含む言葉を一つ選ぶ。
②その言葉の読み方や意味を調べる。
③その言葉を大きな紙にマジックで書き、黒板にマグネットで貼る。
④その言葉の紹介発表をおこなう。その言葉にまつわる個人的なエピソードやその言葉を選ぶに至ったきっかけなどを話す。
⑤質疑応答。
⑥全員の発表が終わったら貼ってあるすべての漢字を使ってストーリー作り。
⑦発表の際に使った紙を提出する。
(p72からの要約)

個人的なエピソードとか、ちょっとおもしろそうですよね。ただやはりこれはその「言葉を書いた紙」=「作品」を見てもらったほうがイメージがわくかもしれません。30作品載ってあるうちの1つだけここに上げさせてもらいます(一つくらい良いですよね??)。こんな↓感じです (p11) 。

これを書いた学習者は「鬱」という字の書き方を日本人に教えてもらったそうです。私も「鬱」って漢字書けませんでしたけど、これ見たらすぐに書けるようになりました(笑)。こんなカラーの素敵な作品が30も掲載されているんです。もちろん数多くの作品の中から出来栄えの良い作品を選んでいるとは思いますが、絵自体がほっこりしていますし、日本語教育の文脈を離れて考えても見ごたえがあると思います。

読み応えのある5本の論文

で、↑のような「今週の漢字」の授業での取り扱い方の詳しいことなどが第3部で詳細に述べられているんですね。

中には「今週の漢字」とは関わりの薄い「iPod touch」のアプリを使った教育の実践なども載っているんですが、どれも「一斉授業でどのように漢字教育を取り入れていくか」を軸に論じられています。

最初の論文の元になっているのは2002年の報告のようですが、レベル差の激しいクラスでの漢字授業の進め方として「今週の漢字」の活動が報告されています。↓はその「おわりに」の引用です。

学習の個別化をデザインする際、一斉授業か個別対応かという二者択一ではなく個々の学習者が周囲のものといかに関わっていくかを考えることが大切であろう。本クラスで試みた「今週の漢字」のような活動は、ある程度レベル差のある学習者間であっても実施が可能であり、日本国内のみならず海外の学習者の集まるクラスにおいても応用できるのではないかと考える。

(p51)

2002年でこの提言か~おれも遅れているな~と結構焦りました(笑)

まあ、それはさておき海外の現場でも応用できるのは間違いないですよね。「今週の漢字」は日本の大学に通う留学生を対象にしたものですから日常生活で出会った漢字が出てきますが、海外の学生の場合は日常生活で日本語に出会う可能性は低くなります。でも「SNSで日本人の友だちが使っていた漢字」とか、「好きな歌の歌詞に出てきた漢字」、「好きな芸能人の名前の漢字」、「ゲームに出てきた漢字」などいくらでも漢字に接する機会はあるでしょうから、学生たちもネタには事欠かないでしょう。

むしろこういう授業で、「週に一度は漢字をピックアップしなければならない」プレッシャーを与えることで、良い意味で漢字に対する関心も惹きつけられることと思います。

またこの活動の肝は「その漢字と私との関わり」の部分(エピソード)だと思いますが、この部分は全員の母語が同じであれば、母語で共有してもいいんじゃないかな~と思いました。

まとめ

というわけで、『留学生の見た漢字の世界」をご紹介してきました。

実際、ここで紹介されている活動をそのまま自分の授業に取り入れられるかどうかはわかりません。でも、学習者個人と周囲のリソース(ものや人、教材、生活そのもの)との関わり方とか、自律学習を取り入れた授業に対する考え方など、行間から得られるものが多かったような気がします。

最近は本が増えすぎてリアル本を購入する際には結構迷いが出ることがあります。この本も迷った挙げ句買ったのですが、買ってよかったです。

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追記
著者の関麻由美氏にコメントをいただきました。
氏はブログを運営されていて、そこでも作品を公開されています。
私も覗いてみましたが、ここも本と同じくらいレベルが高いです。
こんな作品ができるまでの裏舞台が知りたい方は本を購入されると良いかと思います。

今週の漢字

【レビュー】『留学生の見た漢字の世界』」への2件のフィードバック

  1. 関麻由美

    『留学生の見た漢字の世界』の著者の関麻由美です。
    本の趣旨をよくご理解くださって、とても嬉しいです。
    この本を出版することにしたのも、私自身が作品に「やられた」ことがきっかけです。
    よろしければ、私のブログでも、学生の作品を公開していますので、ご覧ください。

    返信
    1. shirogb250 投稿作成者

      著者の方に直接コメントをいただけるとは光栄です。

      肯定的なコメントありがとうございます。
      テキトーなことを書いて怒られないかと心配だっただけにホッと胸をなでおろしています。

      ブログ拝見しました。なるほど、ブログでも公開されているのですね。
      (後で、このブログについても追記されていただきます。)
      本を手にとったときと同じく、そこに載せられている作品に感心しました。

      こんごとも、よろしくおねがいします。

      返信

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