【レビュー】『バイリンガル教育の方法』

投稿者: | 2019年8月3日

私は日本語母語話者で、妻は韓国語母語話者です。そして二人の息子は日本と韓国の二重国籍です。また仕事も言語を扱っていますので、昔からバイリンガル教育にはそこそこ興味がありました。

バイリンガル教育に興味のある方、これから子女をバイリンガルに育てようという人は…

とりあえずこの本↓読んどけ!

読みやすい一般向けの専門書?

本書の内容を簡単に言いますと、これまでのバイリンガル教育研究の結果を紹介しつつ、親や教師に「正しい」バイリンガル教育の知識を提供しようとするものです。

「日英バイリンガル」を想定して書かれている部分が多いですが、他の言語でも同じことでしょう。カナダで有名な英仏語のバイリンガル教育である「イマージョン教育」についても触れられています。

ぱっと見は専門書籍の体裁ですが、難しい言葉はそれほど使われていませんし、述べようとすることが明確なので、あまりこういう本になれていない方も読めるのではないでしょうか。時として専門的な語句も出ますが、わからない言葉が出たら読み飛ばしても大意はつかめるでしょう。

一冊の本から得た知見を、ブログエントリーでうまくまとめるのはなかなか難しいので、以下、私が読みながらマークしたところをランダムに紹介していくという形で本書の紹介ということにします。

1人1言語の法則

特に第1段階(誕生から2歳頃)では、父親と母親がそれぞれ異なった言語で話しかけるとよい

p68

うちでは子供が生まれたときから一貫して、私は日本語、妻は韓国語で話すことを続けてきました(それぞれ母語ですから、努力を要することではありません)。

「1人1言語の原則(父親と母親が一貫してそれぞれの言語で話しかけること)」は何のルールもなく、どちらのことばも出たとこ勝負という「自由放任型」より、2言語の分化を助け、ことばそのものの発達に役立つ

p69

というわけですが、その習慣が確立しているからといってバイリンガル教育がスムーズに進むわけでもありません。

2つの言葉で使い分けをさせようとしても、子供が頑として一つの言葉しか使おうとしない場合もある。こうなると、聞くことは2つの言葉でできるが、話すのは1つという「聴解型バイリンガル」「受け身のバイリンガル」になる。いったんこの習慣がついてしまうと、高度のバイリンガルになることが難しくなるので要注意である。

p67

まさにうちの子がこれでしたね。この辺の経緯は以下に書いたことがありますが、ある日を境に子供が日本語をしゃべらなくなりました。

間違いだらけのバイリンガル教育①

ただし、私は「急に日本語を話さなくなった息子」に対する対応策を講じることができませんでした。このあたりのことについては本書でもあまり触れられていません(そもそもそういう本ではないので)。

「音読」と「読み聞かせ」は正解

また以下のエントリーでも書きましたけど、私の長男に対するバイリンガル教育は「音読」と「絵本の読み聞かせ」のみでした。

間違いだらけのバイリンガル教育②

これは正解だったようです。

親の役割の1つは、いい聞き役になることである。特に母語保持の場合は、いい聞き役になることによって、会話力を保つと同時に、間接的に読み書きの力も強めることができる。

p90

音読が非常に効率のよい母語保持の方法であることは、私自身の経験でも言える。特に、接触時間が少なく、なんとか、接触の質で補おうとする場合には極力音読を勧めたい。

p90

絵本の読み聞かせは、私としては「バイリンガル教育として意図しておこなった」わけではないのですが、結果的には良かったようですね。

子供は読み聞かせを通して実に多くのことを学ぶ。まず、集中して聞くこと、考えること、想像すること、そして何よりも大切なのは、次にどのようなことが起こるか予測することである。

p27

本の読み聞かせは貴重なチャンスを与えてくれる。まず、日常生活を通して子どもが触れることのできない読みことばをふんだんに与えてくれる。語彙ばかりでなく、文法や文章でも、より複雑で高度なものに触れることができる。

p28

ただ、長男は小4になった今でも私の読み聞かせやお話を聞くのが好きですが、年長の次男はそうではありません。「本を読んでやる」と言っても次男はあまり喜びません。これは言語の問題ではなく、嗜好の問題だと思います。

年齢と言語の関係

この本の最もおもしろいところは年齢とバイリンガル教育の関係の部分だと思います。例えば、何歳で外国に出たら外国語力が最も効率よく発達するか?という部分ですが、

「7歳〜9歳」の間に海外に出た子どもたちが一番(英語力の)伸び率がよいことが分かった。

p172

とのことです。一般的には外国語習得に関しては「早ければ早いほどよい」と思われている節もありますが、そうではないのです。

それは「英語の読解力と日本語の読解力とには有意の相関関係が見られ(p174)」ることからもわかるように、第二言語の能力を伸ばすためには、母語が伸びていないといけないからです。

逆に、母語保持という観点から言うと、

現地生まれや5〜6歳以前に海外に出た場合は、会話力においても読解力においても母語保持は非常に難しくなる。また学年が上がるほど母語保持が楽になり、10〜12歳の間に海外に出た場合は、入国時の会話力や読解力を下降せずに保持・発達させることが可能なようである。

p173,174

我が家の場合、息子たちの母語は確実に「韓国語」です。そして長男、次男がそれぞれ10歳、6歳という年齢で韓国を離れました(カンボジアに来ています)。「韓国語保持」という観点から言うと、最も注意を払わないといけないのが次男ですね。

母親とは韓国語ですし、また韓国人コミュニティとも付き合いはありますから、韓国語で会話をする機会は少なくないですが、インターナショナルな幼稚園に行っていることから、読み書きについては意図して教育機会を作らなければなりません。

一方長男は日本人学校に入れています。一応母語保持のために韓国語の本も読むように指導?していますが、韓国では3年生までローカルの学校に通っていたので次男ほどは気を使わなくても良さそうです(とは言うものの野放しにすると韓国語能力が育たないと思われます)。

「新統合型」のアイデンティティ

言語とアイデンティティとは切っても切り離せない関係にあるとはよく言われます。

私も子供が生まれてからというもの、この問題はいろいろと考えてきました。私は、息子たちは「日本人の父を持ち、韓国人の母を持つ人」として育ってほしいと常々思っていました。つまり、韓国人としてのアイデンティティが強いというわけでもなく、日本人のアイデンティティが強いというわけでもないということです。

2つの文化にまたがって成長する子どもは決して2つの文化それぞれに対してアイデンティティを持つのではなく、2つが融合されてユニークな1つのアイデンティティを持つということである。

p219

この部分を読んだときは「我が意を得たり」という気分でした。

2言語の力とアイデンティティとは関係が深く、両方のことばよくできる「2言語高度発達型」ほどアイデンティティがしっかりとしていて、ことばだけを状況に合わせてスイッチできる。

p219

ということも書かれています。バイリンガルでも一方の言語が弱いと、言葉をスイッチすることがアイデンティティのスイッチにもなってしまうそうです。

最後に

というわけで、私が特にハイライトしたところを中心に本書の内容をみてきました。

バイリンガル教育、と一口に言っても私のように「両親がそれぞれ違う言語を母語とする」場合もあるでしょうし、「両親は同じ言語を母語としているが外国に住んでいる」場合もあります。その他の条件も人や子どもの数と同じだけ違ったケースが存在します。

ただ、どのようなケースにしても、本書のようにちゃんとした研究の結果を整理して頭にいれておくと、自分の場合はどうすればよいのかをしっかり判断できるようになるのではないでしょうか。少なくとも私は、この本を読んで「自分の置かれている状況」がよくわかりました。

ただ、それだけでバイリンガル教育が成功することはありません。

例えば本書では外国で子どもを育てる場合、現地校に通わせつつ、母語の習得のために補習校に通わせるのが良いという一つの結論が出ています。もちろん私はこの結論に異議を唱えませんし、そのとおりだと思います。

しかし、例えばうちの子の場合は韓国に住んでいる時に、日本語の勉強へのモチベーションがまったく上がりませんでした。中には進んで勉強する子もいるようですが、うちの子は違いました。そういった場合に「無理に引っ叩いてでも日本語の勉強をさせるべきか」という問題があります。

そこが難しいんですよね。子どもが高度なバイリンガルになってくれればそれはそれでうれしいですが、何も私達は子どもを高度なバイリンガルにさせるために生きているわけではありません。親が涵養せねばならない能力や性質はそれ以上にもっともっとたくさんあります。

つまり私達はこういう本を読んで「バイリンガル教育とはなにか」「どういった教育が理想的であるか」は学べますが、その理想に子どもが応じてくれない場合にどうするかは私達親が決めていかなけばなりません。

という説教くさい言葉でまとめとしましょう。非常に良い本でした!

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