藤本かおる(2019)『教室へのICT活用入門』国書刊行会
私は時として、自分の日本語教育における特徴を表現するときに「ICTを利用した教育に詳しい」と言うことがあります。まあ、実際としてはそれほどとびぬけて詳しい分野がないから「ICTを利用した教育」が少し頭を出すわけですが、どちらにせよ、そういう触れ込みをする以上、これを読んでおかない手はありません。
12月にKINDLE版が出ましたので、発売日当日に買ってすぐに読んでみました。
自分の現在地を確認できる
私が本書を読み終わって最初に感じたことは、
ホッとした
でした。
著者の基本的な考え方、紹介されているいくつかのツールの使い方などが自分の考えや使い方に非常に近いと思ったからです。自分のやってきたこと(やっていること)は非常に王道的なことで間違ったことはやっていないことを確認できたからです。
私のようにずっと海外で日本語教育に携わってきた立場の人間としては、そもそも自分が正しいところに立っているのか、まったく間違ったことをやっているのかわからないということがあるんですよね。
そういった意味で、自分のICT取り入れ度や、やっていることの王道度が確認できる内容となっています。
決して特別な能力を持っているわけではない
特に共感した部分は、著者もICTスキルがとびぬけて高いわけではないというところでした。私などでも「すごいですね」と言われることがありますが、全く「すごくない」んです。極めて普通なんです。例えば以下の記述。
SE(システムエンジニア)でもプログラミングのプロでもない私がなぜこの本を書いているのか。それは、既存のサービスやソフトを使えば、完全文系の教師でも、ICTを自分の授業に取り入れることができるからなのです。(Kindleの位置No.1887-1889)
そして、↓も私がよく言うことです。私は「Eメールを書ける人なら誰でも使えますよ」と言いますが。
教育に使えるICTのほとんどは、文書作成ソフトと同レベルのスキルで使えます。 (Kindleの位置No.1891-1892)
あと、↓これ。
ICTについてわからないことがあった時、とにかくインターネットを使って調べまくるのです! (Kindle の位置No.1930-1931)
ほんと、これは重要だと思います。例えば私は結構エクセルで複雑な計算式を用いて成績判定システムを構築したことがあります。例えば↓これ。
結果物だけを見て「すごい!」という人もいますが、全然すごくないんです。エクセル表には複雑な関数が入っていますが、実は私は今でもごく基本的な関数以外は覚えていません。そのたびにいつも検索しているんです(それはそれで問題ですが)。
余談ですが、エクセルに関して言いますと複雑すぎる計算になると、なかなか検索しても答えが出てこない時があります。その場合はYAHOO!の知恵袋を利用します。具体的な状況を書いて質問を書けば、100%答えが返ってきます。世の中には奇特な人がいて、何の得にもならないのに、計算式を教えてくれるんですよね(エクセルに限ります)
あと、他にも↓これはよくやりますね。
とても簡単な方法なのですが、まず、わからない言葉を調べたい時には「○○とは」のように、語彙に「とは」をつけます。 (Kindle の位置No.1964-1965)
特に有効なのは英語の用語の説明を日本語で見たい時、などでしょうか。「とは」をつけないと英語の説明ばっかりでてきますが、「とは」をつけるだけで日本語の説明が見られたりします。
第一章の価値
第一章は「ICT利用教育の歴史を知ろう」ということなんですが、はじめから実践的な内容を期待していた身としては少々退屈でした。でも、読んでいるうちに、こういう風に歴史が簡潔にまとめられたテキストって今までなかったんじゃないかと感じました。
もちろんこれまでもICT関連の日本語教育の本はいくつかも出ていますが、その歴史から見ていくような本当の「入門書」というのはなかったような気がします。
まとまった内容が「書籍になっている」というのは意外に重要なことです。というのは我々(というか私は最近はあまりアカデミックなペーパーを書きませんが)が何か論文を書こうとした場合には「ちゃんと引用できる書籍なり論文」というのが必要なわけです。もちろんブログなどの内容も引用したりできますが、書籍からの引用や参考の方がアカデミックな世界からは受けがいいです。
そういう視点から考えると、この第一章の価値がわかります。また、第二章以降では具体的なICTを利用した実践が述べられていますが、ここで書かれている内容は数年後にはもうリーダブルでなくなる可能性があります(というか確実にそうなる)。でもこの第一章を残しておくことで、この本が数年後もリーダブルであることの余地を残しているわけですね。歴史は変わりませんからね。
そういうことを考えると、この本が「入門」というタイトルを掲げている意味がわかってきますね。
その他
中には堂々とゲームをしている学習者もいます。その場合、一度は注意しますが、それでも止めない場合は、周囲に迷惑がかかっていない場合、学習者自身の問題としてほうっておいてもいいのではないかと思います。 (Kindleの位置No.2050-2052)
自分自身のことを考えると、会議の時などついスマートフォンでSNSをチェックしてしまうことがあります。これはもう現代病のようなものなので、ある程度の割り切りが必要ではないかと感じています。 (Kindleの位置No.2055-2057)
これも同感。一斉授業でこちらの意図通り動いてくれない学生がいるのはある程度仕方ないです。 そして、私自身もよくスマホをいじります。職場の会議なんか鼻から聞く気がありません(笑)。
あと、基本的なことですが知らなかったこと。↓
eラーニングとは、electronic learningの略です。 (Kindleの位置No.249-250)
でもよく考えたらそうですよね(笑)
あ、あと以下のような質問に答える形で話が進むところがあります。
プリントやテストを作るために「Word」は使いますが、それもあまり得意ではなく、いつも同じ機能を使って作っています。それでもICTを取り入れてみたいのですが……。学習者との連絡に「LINE」はよく使っています。
この本とはあまり関係ないんですが、「LINE」も使い方によってはかなり使えます。↓はLINEじゃなくてカカオトークを使って授業管理をやっていたころの記事なんですが、カカオトークとLINEはほぼ同じように使えます。どちらも「掲示板」機能をフルに使えば、かなり使える学習管理システムになります。
おわりに
というわけで、とりとめもなく『教室へのICT活用入門』について書いてみました。
この本はあくまでも入門書です。これを読んだ人はもう一歩先に行ってみたくなるのではないでしょうか。要するにICTを取り入れた、もっと具体的、実践的な教育の実践ですよね。
そこまで踏み込んでもらいたかった、という気も最初はしましたが、よく考えてみると、それはおそらく紙という媒体ででているこの本よりも、別の媒体で実現されるべき事柄のような気がします。こういったブログであるとか、動画とかですよね。
私は上で「自分のやっていることが王道にあることがわかった」という内容を書きましたが、それはネット上の情報や記述を少しずつ切り貼りして自分のものにしていった結果だと思います。 この本は入門書として一定の役割を果たしましたから、この本を読んだ人たち(私も含めて)が、さらに良い教育の発展にそれぞれの場で、それぞれならではの発信をしていく必要があるんだろうな、と思いました。