【レビュー】『人とつながり、世界とつながる日本語教育』

投稿者: | 2017年8月16日

概略

「つながる」をキーワードに、様々な角度からの日本語教育について書かれています。教室と社会をつなげる試み、教室と世界をつなげる試み、教室内での学習者同士をつなげる試みなど。これからの日本語教育が向かう方向について何名もの著者がわかりやすく、簡潔に語っています。

スキャフォールディングとは?

本書には「スキャフォールディング」という言葉が何度か出てきます。これが本書の一つのキーワードになると思います。恥ずかしながら私はこの言葉の存在自体知りませんでした。

日本語教師のページの用語検索で見てみると…

「足場作り」「足場かけ」等と訳される。ヴィゴツキーが唱えた発達の最近接領域説では、大人(養育者、教師、指導者など)や、より発達の進んだ他の子ども等による、適切な指示、援助を与えること(足場を作ること)の重要性が示唆されている。スキャフォールディングは、指導する側に決まったスケジュールがあり、その通りにやらせる、というものではなく、指導者が、子ども(学習者)が今どういう状態にあり、その発達の最近接領域がどこにあるのかを見極めて、最良の環境を与えることを指す。具体的には、子どもが自分でできるところについてはあまり介入せず、子どものできないことを補い、発達を手助けすることであり、それによって遂行できるレベルの課題が与えられた時、子どもの発達はおのずと起きるとされる。

ということらしいです。気になる部分は太字で示しました。「ヴィゴツキー」も最近日本語教育の論文で度々言及されていますし、近いうちに本腰入れて見てみようと思います(すみません勉強不足で)。

「足場作り」「足場かけ」「最良の環境を与える」「発達を手助けする」などの言葉から大体スキャフォールディングが指すところはわかるような気がしますね。

スキャフォールディングを豊かにするための「つながり」

本書では教師が一方的に教えるということではなく、スキャフォールディングを豊富にする「仕掛け」を作ることによって、学習者に日本語学習に良い環境を与え、発達を促そうとしています。

それを端的に表したが以下です。本書の冒頭で語られています。

私は「助けを借りてできること」も「できること」の中に入れて考え、学習者から得られるスキャフォールディングを豊富にすることで、いい日本語教育ができると考えています。(p6)

この「助けを借りてできることもできることの中に入れて考える」というあたりにビビッときました。これまでの日本語教育を含めた多くの教育では「助けを借りなくてもできること」しか「できる」能力としてカウントしていませんでしたからね。

しかし、上のような概念は新しいようですが、よく考えると我々が普段からおこなっていることでもあります。

例えば、私は韓国に長く住んでいることから、韓国語を割と高度に操ることができます。職場での日本人以外の同僚などとは韓国語を使ってコミュニケーションを取りますし、要求される報告書なども韓国語で作成しています。でも、それを全て私の内部の能力だけでこなしているわけではありません。

報告書の作成などにおいて、スペリングのチェックには「翻訳機」を用いますし、言い回しが韓国語として妥当であるかどうかなどは「ネットで検索」したりします。また、重要なものの場合は韓国語「ネイティブのチェック」を受けます。

これらの「翻訳機」「ネットで検索」「ネイティブのチェック」を受けないと完璧な報告書が書けない私ですが、この事実を以て私は「韓国語で報告書が書けない」と言うべきでしょうか?違いますよね。私は様々なものや人の助けを受けつつ実際に報告書を書けるわけですから、「韓国語で報告書を書ける」というのは私の能力としてカウントして良いはずです。

よく考えれば、日本語の文章を書くときも同じです。例えばちょっと固いメールを送ったりする時に文例をネットで検索したりしませんか?私は日本語のネイティブですが、文例をネットで検索しないとちょっと固いメールすら書けないのでしょうか?このようなことから実は「助けを借りてできること」も「できること」の中に入れて考えるというのはそれほど奇抜な考えでないことがお分かりかと思います。

話が逸脱しましたが、その広く言う「(助けを借りてでも)できること」を増やすための仕掛けとして、積極的にいろいろなものと「つながる」というのが本書のテーマなわけです。

つながりを作る日本語教育へ

詳しい内容は本書を読んでいただくとして、読後の私はとにかくワクワクした気持ちで満たされました。私も日本語教師の一人であり、毎学期100人を超える学習者を相手に現場で日本語を教えています。その私が、この学習者たちのスキャフォールディングを豊富にするための「つながり」を作っていけるか、そればかり考えています。

本書を読んでも、「つながり」を作るための具体的な指示はありません。ただ事例があるだけです。しかしその事例は、以下に示すように多岐多様に渡り、多岐多様なヒントを私達に与えてくれます。

・日本語教室内での学習者同士のつながり
・上級生と下級生のつながり
・学習者と教室外のコミュニティとのつながり
・インターネット上での学習者同士のつながり
・世界中のプログラムとプログラムのつながり
・継承語話者の世代間のつながり
・大学院生間のつながり
・大学院生の将来へのつながり
・オーストラリアと世界のつながり
・ことばと日常言語生活とのつながり(p226、p227)

これらの「つながり」の事例を参考にして、私達日本語教師一人一人が、「新たなつながり」を作っていくような日本語教育を実践していかねばならない、そんな使命感を与えられたような気がしました。


 

【レビュー】『人とつながり、世界とつながる日本語教育』」への1件のフィードバック

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