【レビュー】『SNSで外国語をマスターする《冒険家メソッド》』

投稿者: | 2018年11月20日

村上吉文氏による待望の著作です。氏はJICAや国際交流基金の海外派遣で世界中を飛び回り、常に業界を牽引してきた日本語教育界の巨人。氏が運営するブログ「むらログ」は日本語教育に携わるものにとっては情報の宝庫です。私自身「2008年以降の記事で読んでいない記事はない」と言えるほどの大ファンです。

むらログ

2つのターゲット

まず「はじめに」で、想定する読者の層が2種類提示されています。

1)この冒険家メソッドを使って自分で外国語をマスターしようとしている人たち
2)ちょっとアナログな外国語教師の皆さん

立場が違えばこの本に対する見方も変わってくるでしょう。今回は2)ちょっとアナログな外国語教師の皆さん目線から書いていきたいと思います。あ、私は日本語教師ですから、特に「日本語教師」目線にします。

また1)については今私も新しい外国語を勉強していますので、のちほどそっちの目線からのレビューも書いてみたいと思います。

冒険家メソッドとは?

まず、タイトルにもなっている「冒険家メソッド」とは何なのでしょうか。簡単に言うと、

ソーシャルメディアを使いつつ自分で計画を立てながら主体的に外国語を勉強する方法(pⅣからの要約)

と言えるでしょう。そのメソッドにのっとって外国語を勉強する人が「冒険家」なわけです。

ここで重要なのは「ソーシャルメディア」「主体的」という言葉でしょう。前者に関しては、以下のように語られています。

ソーシャルメディアでコミュニティの力を利用しない人は単なる独習者であって、冒険家ではありません(p113)

これは大事なポイントですのでメモっときましょう。また、「主体的」というのは「冒険家メソッド」は基本的に「自律学習メソッド」だからです。一人で勉強するんだから当然「主体性」が必要になりますよね~。

で、教師としての着目点は?

まあ、冒険家や冒険家メソッドってのはだいたいわかった。インターネットを使って一人で外国語勉強することですね。でもそれって学習者がとる自律学習メソッドでしょう?我々授業を担当する教師にとって本書はどういう意味があるの?…このような疑問が生まれますよね。

しかし、よく考えてみてください。あなたの今担当しているクラス、過去のクラスに飛び抜けて日本語が上手な学習者がいましたよね。なぜその学習者は飛び抜けて日本語が上手なのでしょうか。あなたやそれ以前の教師の尽力のおかげでしょうか。

それは違う!

これは教師生命をかけて誓いますが、その学習者が飛び抜けて上手なのは、100%間違いなく冒険家だからです!

いや、やっぱ教師生命はかけませんが、日本に滞在経験がほとんどないのに、他と比べて明らかに高い日本語能力を持っている人はほとんどが冒険家メソッドで勉強してきた人たちばかりです(もちろん当人は「冒険家」という言葉は使わないと思いますが)。

だったら、その「すご~く日本語がうまくなるノウハウ」を、その他の「あんまり日本語がうまくない人」「なかなか伸びない人」にも実践してもらいたいですよね。

そういうわけで、外国語学習者じゃない日本語教師も、この本を読んで、冒険家メソッド的要素を授業に入れていくことが望まれるわけです。

知る→取り入れる

第2章と第3章では、ソーシャルメディアの説明や、冒険家メソッドの具体的な適用例がふんだんに書かれています。

FacebookやYoutubeを知らない人はまずいないでしょうが、Zoomについて知らない人はまだまだたくさんいるでしょう。

例えば私はZoomというオンライン会議システムを使ってリアルの授業を遠隔授業にしたことがあります。またこれを使って、クラス外の人と日本語で話すような授業もやったことがあります。

ZOOMで日本語授業をやってみました

こういうのも、知らなければ当然できませんし、使うか使わないかは別として知っておけば後々「あ、これを実践するためにはZoomが使えるな」などというように授業構成・構想の幅を広げることができます。

また、p75に提示されているソーシャルメディアの中でいうと、Lang-8なども授業活動に取り入れたことがあります。

これは目標言語で書いた作文をネイティブに添削してもらうようなサービスですが、これを宿題にすれば自分で添削する必要がなかったり、ネイティブ話者と交流できたりします(最近は新規登録できないだの、なんだのあるみたいですが)。

単語の記憶方法などではAnkiやクイズレットが紹介されています。Ankiは授業では使ったことがありませんが、クイズレットはよく使います。
話はそれますが、先日読んだブログではなかなか詳細にその使い方が記されていて勉強になりました。

quizletを使った語彙テスト(電化製品音痴奮闘記)(happy365day’s diary)

ここまで書いたのは本書で紹介されている冒険家メソッドの学習法のごく一部ですが、そういうものを授業活動にも取り入れるためのヒントもたくさん書かれています。

取り入れる→冒険への後押し

教師が冒険家メソッド的要素を授業に取り入れることによって得られる一次的なメリットは「授業運営の幅が広がる」なわけですが、実はそこが到達点ではありません。最終的な目標は「授業で紹介した学習法を学習者が授業以外でも取り入れて自発的な学習をおこなうようになる」というところにあるのです。

私は最近はFacebookの「日本語コミュニティ」を文字コミュニケーションの場としてよく使っています(p241でも言及されています)。ここに日本語で投稿をすると、世界中の学習者や日本語母語話者がコメントを返してくれます。で、私は授業ごとにテーマを与えて学習者に投稿をさせたりするわけですが、中には「授業と関係なく」投稿をおこなう学習者も見られます。

そうなってくれるとこちらもやり甲斐があるというものですよね。一人の学習者が冒険家として大海原に出ていく過程を少しだけ手助けできた、という喜びがあります。その喜びにつながる過程も、この本で学ぶことができるんですね。

嬉しいサプライズ

というわけで、語学学習者じゃない教師目線から見ても盛りだくさんの内容です。私は10年以上「むらログ」をなめるように読んでいましたが、それでも「これは聞いてないぞ!」「隠していたのか!」といったような内容もありました。

また、ほんとこれは個人的に嬉しいサプライズなんですが、私の名前が活字になって出ているんです。

「科目別の授業で冒険家メソッドを取り入れるには」という段の「会話」という項目の中で、私が今取り組んでいる「やさしい日本語おしゃべりカフェ」が一例としてあげられているんですね~(p215)。

ZOOMを使った「やさしい日本語おしゃべりカフェ」1周年!!

これには感動しました。末代まで語り継ごうと思います(笑)

ここに至るまでにも私が名前を知っているor少し交流のある日本語教育従事者の方の名前が出てきていましたが、こうやって特に著名でもない我々の名前を出してくれるところに、「業界を盛り上げていこう!」とする著者の日本語教育に対する愛が感じられます。

というわけで、この「冒険家メソッド」まだ買っていない人、読んでいない人は今すぐ書店にGo!!!それか、アマゾンでポチりましょう!

【レビュー】『SNSで外国語をマスターする《冒険家メソッド》』」への2件のフィードバック

  1. えんどう

    先日、出張で東京に行ったとき、麹町の凡人社さんで購入しました。
    まだ読んでいませんが、このレビューを読んだら、ますます読むのが楽しみになりました!

    返信
    1. shirogb250 投稿作成者

      どうも、コメントありがとうございます。
      必殺技てんこ盛りの内容です。ぜひ読んでください~

      返信

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