もう終わりましたが、直前学期では新しい試みをやってみました。
タイトルは「実用日本語会話」という授業で、これは私の勤務する韓国の大学の教養日本語科目の一つですけど、今学期から新設された科目です。この科目の問題は、
主教材が決まっていない!
ということです。いや、実は決まっているんですけど、その教材は目下出版準備中で、まだ使えないのです。というわけで今学期に関しては「主教材なし」で、なんでも自由にやれる!という状況でした。
「自由にやれる」というのがいいのか悪いのかはいろいろな条件に左右されますが、おそらく日本語教育に携わっている人の大多数は「やりがいはあるが、準備が大変」といったところではないでしょうか。
電子教科書の利点
主教材がない場合の伝統的な授業進行方法は、「その都度何らかの教材を用意して、学生に配る」という方法かと思います。
私も第一にこれを考えましたが、毎週毎週コピーしたりするのってそれだけでかなりの労働なんですよね。コピー機もよく詰まるし。そもそもここ数年コピーしてプリントを配るっていう作業をしてなかったので、どうも乗り気になれませんでした。そこで私が考えたのが「電子教科書」です。
そのへんの経緯や作り方などは↓のリンクを見てもらえればよく分かると思いますが、簡単に言うと、「グーグルスライドで教材を作って、それをSNSで毎週共有する」ということです。
■Googleスライドで「なんちゃって電子教科書」!
■かんたん電子教材の作り方
これしか教材がありませんので、学生は毎回授業が始まると、教科書を見る代わりにスマホの画面を見ることになります。授業の進行は、そのスライドを教室のスクリーンにも当然映して、スマホを忘れたとかバッテリーが切れたというような学生にも対応できるようにしました。
ただほとんどの学生は自分のスマホを見ていましたね。この電子教科書の利点は、
・動画や音声を簡単に入れられる。
・管理が便利。
ということかと思います。学生にとっても私にとっても同じ利点があると思うのですが、一学期このやり方で通してみて、「このやり方が最高だったとは思えない」という結論に達しました。それについて考えてみましょう。
電子教科書の問題点
●字が小さい
もちろんスマホですから、文字のサイズに関しては自由に拡大縮小ができるわけですが、それでもそもそもの端末の大きさが5インチとか6インチです。一字一字は拡大して見ることができても、文章を読む場合には全体を俯瞰するのが難しくなります。
●調べ物がしにくい
これは私も普段スマホで勉強する時に感じることなんですが、なにかわからない単語がある場合、グーグル翻訳とかで調べますよね?それですぐに訳語が出てきて、わかる場合は問題ないんですが、関連事項について調べるとか、その語の他の訳にはどのようなものがあるかとか調べる場合には一度今見ている画面を他の画面に切り替えて、違うウィンドウ(?)を開いて見る必要がありますよね?
私の使っているスマホはデュアルモニターみたいにできるんですが、それでもPCのデュアルモニターほどには使い勝手が良くなく、あっちの画面を開いたり、こっちの画面を開いたりして面倒になるときがあります。
このように、私が感じたのは上記の「字が小さい」と「調べ物がしにくい」という2つの問題点です。学生はあんまり何も言いませんでしたが、同じことを感じていたと思います。
ある学生は「スマホ&タブレットPC」とか「スマホ&ノートPC」とかを準備して授業に臨んでいました。↓こんな感じでしょうか。
電子教科書はノートPCで開いて、わからない単語や関連事項を調べたりするのはスマホで、という感じですね。なかなかスマートなやり方ですが、それをすべての学生に求めるのは酷ですよね。
最高の方法とは言えない
まだ、今の時点では「スマホだけで見る電子教科書を主教材として使うのはあまり効率的ではない」と言えるのではないでしょうか。
「効率」というのをどう測るかにもよりますが、「授業を受ける」という行為だけに限定した場合、「電子教科書で唯一のスマート端末を消費する」よりは、「紙の教科書をベースにスマート端末を補助利用する」方が効率的だと思います。
さっと書き込んだりもできますし、教科書の内容をすぐにスマホで検索できたりもしますね(もちろんスマート端末にさっと書き込んだりもできるわけですが、実際問題としてそれができない学生が多い)。
ただ、他の観点から考えると、例えば教材の管理という点で考えてみると電子教科書に利があるのは間違いありません。教科書はよく失くしたり、家に置き忘れたりしますが、電子教科書なら失くす心配はありませんし(もちろんスマホは失くしますが)、教師側からの教科書の部分指定なども楽にできたりします。
だから一概に「電子教科書」か「紙の教科書」かとは言えない訳ですが、現時点で言えるのは「スマホを通して電子教科書を見ながら授業を受けるスタイルは最高の方法とは言えない、改善の余地がある」ということですね。
「電子副教材」としてピンポイントの使用を
やっぱこれ一本で押していくのはきつい。でも教師が簡単に作れる「電子教材」も「メイン教科書」ではなく「副教材」としてなら活用の幅はものすごい広いと思います。
例えば別授業で実際に使ったこれ↓
「~たことがありますか」の練習なんですが、それぞれの左右にある再生マークをタップ(クリック)すると私の声で「がいこくにいったことがありますか」のような音声が聞けるようになっています。
「~たことがあります」の文法説明やらなんやらを終えた後で、ゲームをおこなうんですが、その前段階の練習として学生にはこれをやってもらいました。
スクリーンにこのスライドのQRコードを埋め込んでおいて、それぞれのスマホでこのスライドに誘導するだけです。あとはそれぞれが音声を聞きつつ、いう練習をおこなうんですね。
ちなみにQRコードからの学生の誘導についても以前書いたことがあります。
一斉にリピート練習をするよりも、個人のペースで進めることができますし、また授業外でも聞けることができるので悪くないと思います。
こういった「電子副教材」をピンポイントに授業に組み込んでいくのは、非常に効果的だと思います。教科書によっては音源がついてないのもありますし、そういった場合には自分で授業構成を考えて作ってしまうのです。なんなら動画も入れてもいいですしね。もし宿題を課したり、小テストをするならそのスライドに「グーグルフォーム」を貼り付けたりしてもいいわけです。
まとめ
というわけで、「なんちゃって電子教科書」を一学期使ってみての感想を書いてみました。学生のスマホ一台に教科書を表示させて授業を進めるよりは、副教材的な位置づけとして「電子教材」を使ったほうが効率はまだまだ良さそうだという話でした。
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