敏腕営業マンが仕事を持ってきました。
プノンペンの日本語観光ガイドの研修
という仕事です。詳しく言うと、その研修の中の一コマで、
観光ガイドの日本語ブラッシュアップ!
をする、というものです。80分で観光ガイドもしくは観光業に従事する人々を相手に日本語講座をやります。講座の趣旨などはわかりやすいのですが、実際授業をおこなうとなると、一体何をやればいいのだろうか?と頭を抱えてしまう何とも難しい依頼。
しかし、せっかく取ってきてもらった仕事だし「まあ、なんとかなるか」と思い、その授業をさせてもらうことにしました。
私一人で受けたのではなく、もう一人若手の講師を道連れにし、二人でやりました。結果的には二人でやったことが非常に良かったです(これについては後述)。
以下、我々がどうやって授業の構想をし、どのような授業をおこなったかを書きます。
情報を収集する①
まずは当然情報収集から。
観光ガイドの仕事ってある程度は予想できるけど、実際のところどうなんでしょうか。たまたま職場に「元ガイド」がいたので、その人にいろいろ聞きました。
「ガイドをしていて日本語で困るときってどういうとき?」
と聞いてみましたが、「お客さんに難しいことを聞かれたとき」だそうです。「難しいってのはどういうこと?」と聞くと、「こちらが知らない単語が出てきたとき」だということだそうです。まあ、当たり前っちゃあ当たり前ですね。
その答えではなかなか授業を構成するのは難しそうです。
あと、「観光地の説明なんかはだいたいマニュアルがあるのでそんなに難しくない」のだそうです。
「観光ガイド」の主要業務と思われる「観光地の説明」はそんなに難しくないって…じゃあ、何しましょうかね。
情報を収集する②
並行しておこなったのはTwitterを使って、世界各地に散らばる日本語教師の人々にアドバイスを乞うことでした。
【教えてください】
— SAKUMA SHIRO (@shirogb250) July 24, 2019
今度、観光ガイド向けの研修で「日本語ブラッシュアップ」の授業(80分1回のみ)をすることになりました。相手は現役ガイド(カンボジア人の日本語ガイド)です。何やればいいでしょうか?皆目見当がつきません。皆様教えてください!
期待通り、ヒジョーに有益な意見をたくさんもらうことができました。
僕だったらまずはその相手に直接アンケートなどで聞いてしまいますが、文化的に教師たるものがそんな事はしてはいけないような感じでしょうか。(実際にそういう文化もあります。)
— Yoshifumi Murakami (@Midogonpapa) July 25, 2019
なるほど、それはそうですね。直接主催者に聞いてみました(結果として答えは得られませんでしたが)。
「まるごと中級」のパート3、「長く話す」はどうでしょう?中級2トピック9はまさにカンボジアネタ…。トピックがピッタリすぎるなら、中級1のトピック9のスペインの祭りの課とか、中級2のトピック2(観光地の説明)、トピック4(伝統芸能の説明)も使えるかも。時間はちょうど80分ぐらいなので。
— 磯村一弘 ISOMURA,Kazuhiro (@Honigon3D) July 24, 2019
おお、そうだ忘れてた!我々は日常的に「まるごと」を使っているのです!灯台下暗しでした。
そうですね。もし私だったらという話ですが
— Taiwan abe (@jptwabe) July 24, 2019
1.フォーカスできる点がいくつかある台湾の観光地の写真を集める2.日本人10人に見せてみて、写真のどこに注意が向いたか聞く3.日本人は注意を一番集めたところはどこか当てるというのをkahootでゲームする。4.どうしてか考える、、とかしそうですね(^^;;
こ、これは!思いもしなかったKahoot!確かに単発の講座なら特にゲーム的な要素を取り入れるのもありでしょうね〜
さすが、Twitter界隈はレベルが高い。惜しみなく良質のアドバイスを提供してくれます。
こういったアドバイスや元観光ガイドの話を元に若手講師とともに少しずつ内容を詰めていきました。話し合いの中で、
・何かを「教える」というのは違うだろう
・人数が多いのでグループワークをするのが良いだろう
ということまでは大体まとまりました。ただ問題なのは「日本語レベル」でした。一応現役のガイドなわけですから、ガイドできる程度の日本語レベルであることは間違いありません。でもどうやったらレベルの高いガイドも(比較的)レベルの低いガイドもなにか一つ学んで帰れるような授業ができるだろうか。
そんな中、下のアドバイスを思い出しました。
「アンコールワットやキリングフィールドなどの大規模観光地でポイントからポイントまでの移動中のコミュニケーション、どうしてる?」とか!?
— ペナンのたびなすび|マレーシア生活 (@tabinasubi) July 24, 2019
ガイド中に使える日本語のOpen QuestionとClosed Questionとかもいいと思います!お客さんが個人のときと、団体のとき、時間があるとき、ないときの使い分け練習とか。
— ペナンのたびなすび|マレーシア生活 (@tabinasubi) July 24, 2019
おお、これは応用できそう。
1本目
学習者のことがわからない中、一つの活動で80分をやり抜くのはリスクが高い。ということで、授業は二本立てにしました。
「+αでコミュ力を高めよう!」が一本目の活動です(実際のスライドです)。
例えば観光客がなにか質問をします。それに対して、ガイドが答えます。でも、それが質問への答えだけでは、それ以上コミュニケーションが進まないことがあります。ですから、「質問に答えるのはガイドとして当然。それに関する+αを言うことができれば、コミュニケーションが進むし、観光客との距離がグッと縮まる!だから、今日はこの練習をしてみましょう」ということなんですね。
+αに何を言うか、というのはなかなか難しいところです。そこはいくつかのストラテジーがあることを紹介しました(まあ、テキトーです)。
でも、こんな抽象的な説明ではわかりませんから、それぞれの例示も。
…と言った具合ですね。「カンボジアの人口ってどのくらいですか?」という質問に答えられるのはガイドとして当然です(1500万が正しい数字かどうかはわかりません)。でもそれに一言プラスできたらお客さんとの会話が弾むかもしれませんよね。
その後は我々が作った㊙質問シートを配り、6人一組でお互いに「+αをどう言うか?」を考えてもらいました。
その後は全体シェアをしました。
ベテランだからと言って+αがうまく言えるか、といえばそうでもないんですよね。(比較的)レベルの低い人が結構おもしろい+αを言っていたりして、それなりに学びのある活動になったと思います。
2本目
2本目のタイトルはこれ↓
これは、ガイドとしての持ちネタをシェアしようというものです。
この授業の準備をするにあたり、Youtubeのガイドさんの動画をたくさん見たんですが(主にバスガイドの)、芸人顔負けの話芸を披露する人もたくさんいるんですよね。そこで着想を得ました。
ガイドにも自分だけが持っているテッパンネタがあるはず!
それをグループでシェアしてもらおうというものです。もちろんグループでの話し合いは母語であるクメール語で構いません。やる前はこの企画は結構悩みました。「そんなにネタがあるだろうか」「あったとして同業者にシェアしてくれるだろうか」。しかし心配は杞憂に終わりました。一本目の活動で場が温まっていましたので、グループ活動もスムーズに進んだようです。
グループでのシェアのあとは何人かに全体でそれをシェアしてもらいました。
・自分が日本に行ってびっくりした話をお客さんにすると笑ってもらえる
・話の途中で「なんでやねん」とか関西弁を交えると場がなごむ
・受け狙いより、ガイドとしての専門知識を高めて話すのが一番(というわけで専門性の高い話を披露)
といったようないろいろな話が出ました。
授業準備を振り返って
結果はよくわかりませんが、場の反応は割と良かったと思います。学習者の人々がこちらに協力的だったというのももちろんあります。
授業がうまくいったのは、以下の二点が大きいと思います。
・二人でディスカッションしつつ授業準備ができたこと
・Twitterの皆さんのアドバイス
1人だと自問自答になってしまうんですよね。あーでもない、こーでもないと相談できる相手がいて、またその相手も意見を出してくれる。0からモノを作り上げるときには本当に必要な条件だと思います。実際できたものを見てみても、二人の提案や考えが半分ずつはいっている感じです。
またTwitterの底力を再確認しました。たまたま今回はこのやり方で授業をしましたが、「まるごと」や「Kahoot!」を使う選択肢も残っている、と考えることで授業準備の余裕ができたことは言っておく必要があるでしょう。
なんでもそうですけど、プランAがうまく行かなかったときにプランB、プランCという保険があることは精神の安定につながります。
まとめ
というわけで、なんとか無事に観光日本語の授業を終えることができました。
で、やった後にオブザーバーの人にも言われたのですが、
この授業内容は他の業界でも使える。
そう、質問に対して答えだけで対応しないとか、テッパンネタをシェアするというのは、人を相手にする業界ならどういったところでも通用するでしょう。そういうわけで、出張日本語講義をお考えの方はぜひご連絡ください(笑)