私は2004年以降は日本で暮らしたことがありません。16年。これを長いと見るか短いとみるかはさておき、たまに日本に行くとびっくりすることが多々あります。日本は故国ではありますが、
言葉の通じる外国
のように感じることもあります。タクシーのドアを自分で開けようとして運転手さんに怒られるとか、そんなことはおそらく皆さんにもよくあることではないでしょうか。女性なんかは「日本人はすっぴんでは外に出ないことにびっくりする」というのも聞いたことがあります。
アクセントの変化
さて、言葉の問題です。新語が生まれるのは昔からそうでしたし、このインターネットが発達した現代ではその情報もキャッチアップしやすいのですが、時々驚かされるのが「アクセントの変化」です。
基本的に日本の情報は文字ベースで接しているので、アクセントが変化していることにはあまり気づかないのですね。
アクセントの平板化が進行するのは前からの傾向ですが、伝統的な単語が平板化するのを聞いたときは、やはりびっくりします。その一番が「そもそも」です。
「そもそも」という言葉は普通「頭高アクセント」だと思いますが、平板アクセントもだいぶ市民権を得てきたような気がします。ほんとよく聞きます。
平板化の理由
アクセントが平板化するキーワードには2つあるようです。
①発話時の経済性
②専門家、仲間意識
①は平板アクセントの方が発話が楽だということ、②は、他のアクセントだったものを平板化させて発することで「それっぽい」感じが醸成されるということです。
そう言われてみるとですね、昔「業界用語」と言われて、カーディガンを肩にかけた人たちが使っていた(?)ものはだいたい平板型アクセントですね。
ヒーコー
チャンネー
ワイハ
ご存じない若い層のために解説をしておきますと、上から「コーヒー」「ねえちゃん(若い女性)」「ハワイ」という意味です。確かに最初の音を高くして発音したら、業界用語のそれっぽい感じはあまり出ないような気がします。
翻って「そもそも」
「そもそも」も多分、まだまだ頭高アクセントが主流ではないかと思います(違ったらすみません)。でも結構平板アクセントも耳にするんですよね。で、どんな人が使っていたか、と考えるとやっぱり業界人っぽい人が多いような気がします。
私が初めて耳にしたのはラジオ番組でした。そのDJって思いっきり業界人ですよね?年は50代だと思いますが。あとはビジネスマン(営業的な)、映像系の会社の人がはっきりと「平板型」で「そもそも」と発話したのを覚えています。あと時々Youtuberとかもそう言ってるのを聞きます。プレゼン的な場面で「そもそも」ってよく使うからでしょうか。
それと「そもそも」が平板化したのは、「そもそも論」という言葉の登場が大きいのではないかと睨んでいます。単独で「そもそも」を頭型で発話している人でも「そもそも論」の「そもそも」は平板型で読むことでしょう。そこで「そもそも」の平板化というのが人々の耳に慣れてきたというのも下地としてあるのではないでしょうか。
「ほぼほぼ」の登場
また、びっくりしたのは「ほぼほぼ」という新しい語彙の登場です。
これは私が日本にいたとき(2000年代前半)には確実にありませんでした。古い人間としては「ほぼ」でいいじゃないか?と思うのですが、この「ほぼほぼ」かなり浸透していますよね?意味の違いも少しあるようです。
「「ほぼ」の口語的な強調表現」」と言えるみたいですね。
ただ、私はこの成立にはやはり「アクセント」がキーを握っていると睨んでいます。
「ほぼ」は普通頭高アクセントで読みますよね?これを逆にしてみてると、ちょっとおかしいですよね?おそらく二音節の言葉って頭高型から平板型に変化しにくんないじゃないでしょうか(間違っていたらすみません)?
だから、「ほぼ」単独ではアクセントを変えにくく、それはすなわち「っぽさ」を表現できない。そこで「ほぼ」を反復し平板型でよむ、というウルトラCを採用したのではないでしょうか?
「ほぼほぼ」はホント「っぽさ」が出ると思っています。
結論
で、結論ですけど、いや、結論などないのです。
ただ、これをお読みの皆様に私が大胆な未来予測をおこないます。それは、
これからは頭高化が来る
という予想です。そう、これだけ平板化が進み一般にも受け入れられてしまうと、「っぽさ」や「仲間意識」は平板化では表現できなくなります。ですので新たな形態が必要になります。それが頭型化なのです。
「としょかん」を平板型で発するというのにも驚きましたが、頭高型で発するのもちょっと驚きですよね。
このアクセント問題がどう動いていくか、目が離せません。
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