レビュー『どんな人にもピン!とくる教え方のコツ』

投稿者: | 2020年7月23日

佐々木恵(2016)『どんな人にもピン!とくる教え方のコツ~上手に伝える5つの質問とタイプ別指導法』ごきげんビジネス出版

AmazonにKindle日替わりセールがあります。一度登録しておくと、毎日その日のセール商品についてのメールを受け取ることができます。この本も確か日替わりセールで199円とかで買いました。特に聞いたこともない本でしたが、レビューをみたらおもしろそうだったので買って読んでみました。

量は多くないですが、平易な文章でポイントをよく抑えており、教え方の入門書としては悪くないと思いました(上から目線でスンマセン)ので、ここでご紹介したいと思います。

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教え上手になる!心構え

まず第一章はこの「心構え」から始まるのですが、読みながら既視感があるなと思ったら、インストラクショナルデザインの本にも同じようなことが書いてあったんですね。実際「インストラクショナルデザイン」自体にも言及している箇所が一箇所ありました。


まあ、この本はおそらく「会社の後輩や部下に仕事を教える」ということを前提として「教える」という言葉を使っているのですが、その他の教育現場においても通じるものはあるかと思います。

最も大事な心構えはこれですね。

相手ができないのなら、それは教わる側の問題ではなく、教える側の問題です。(Kindleの位置No.141)

そうそう、これははっきりしておいたほうがいいと思います。「教える-教わる」がうまく行かない時に我々、教える側は得てして「教わる側」に問題を見つけようと思ってしまいます。もちろんそういうこともあるとは思いますが、まずは「自分のやり方に問題があるのではないか」と自省するのが先でしょう。

私も授業がうまく行かない時は「学生の問題である」と片付けてしまうことが多いです。特に駆け出しの頃はそうでした(今でもちょっとあります)。でも、まずは相手の要素はカッコに入れておいたほうがいいんですね。

もちろんそれでも授業がうまく行かない時もありますし、時として「しゃーないわ」と開き直ることも時として必要だとは思います。あんまり悩んでいても仕方ないですからね。

5つの質問

あなたにとって、慣れていること、意識しなくてもできることこそ、キッチリと準備して教えるべきです。(Kindleの位置No.188-189)

ということですが、きっちり準備って何をするの?と思いますよね。そこで本書では「これさえ話せば相手に伝わる」という項目を5つの質問としてまとめています。それは、

それは何か?
なぜそれをするのか?
どうやってするのか?
たとえると?
今すぐできることは?

という5つです。これを日本語教育に応用してみましょう。例えば動詞の活用グループ分けとか教えたりしますよね?

・それは何か?
→動詞のグループを、種類によって3つに分けること。

・なぜそれをするのか?
→それを知らないと、動詞を適切な形に活用できない。

・どうやってするのか?
→規則を説明。

・たとえると
→学習者の母語を例に出して説明(あなたの言語でも似たようなのがあるでしょ)。

・今すぐできることは?
→一番後ろの文字が何で終わるかを見る

ってな感じでしょうか。最近は動詞のグループを説明することはあまりないですが、以前は毎年やっていました。ビデオも作ったりしました。で、やはりそのビデオにはその内容が入っていますね。

おそらく日本語授業でも段階が進んでくると5つの質問全部を含まなくてもよくなるかもしれません。しかし、「なぜそれをするのか」「どうやってするのか」「今すぐできることは?」というのは外せないでしょうね。

行動中心アプローチが最近ぐっと来ているのは、活動自体にそういった質問と答えを自ずと含んでいるからかもしれません。

3つのステップ

「どうやってするのか?」の部分は教える際の中核を担う問いになると思いますが、ここで著者は、

箇条書きにして、手順がわかるように整理しておきましょう。できれば、3ステップにまとめるのがコツです。(Kindleの位置No.226-227)

と述べています。ステップが多すぎるとうんざりしてしまうそうです。確かにそのとおり。ただ複雑なことを教えるときは3ステップでは無理ですよね?その場合はどうするかというと、

3ステップでは説明しきれない! という場合は、それらをさらに細分化していきます。あるいは、教えるべきことをどんどん箇条書きにして、いくつかをまとめて3ステップにしてもOK。 (Kindle の位置No.230-232)

なるほど、とにかく3ステップを積み重ねるということですね。これはいいかもしれません。何か学生に指示を出す場合も3つの塊を意識する。例えば、

①まず、ビデオを見る。
②疑問に思ったことを書き出す。
③それをコメント欄に書く。

みたいな感じだとわかりやすいですね。

人間の脳が同時に覚えられるのは、3つまでと言われています。3つにすることで相手は覚えやすくなります。(Kindleの位置No.233-234)

取り掛かりをつくる

これは重要だな、と思います。私もそうですけど、朝PCを開いてじゃあ仕事はじめるか~っていうときにちょっと体が重いですよね。で、多くの会社員がそうかもしれませんが、私もやはりメールをチェックします。

で、何らかのアクションとかが必要になる内容のメールがあると、それをやりますよね。で、やっているうちにエンジンがかかってきて仕事モードに変わっていくと。

そういえば以前言われていた9分フラグメントでしたっけ?その仕事術の肝も、わざと仕事に取り掛かりを作るための技術でした。


仕事は毎日のことですから人それぞれのルーティンがあると思いますが、日本語教育場面で学習者に何か作業をさせる場合ってそんなに一人一人のことを考えて課題とか出せません。ですからそこで、課題や作業自体に取り掛かりを作ってやるんですね。

「まずはここから取り掛かるといいよ」という最初の一歩を示すのです。最初の一歩がないと、どこから始めたらいいのかわからず、取りかかれないかもしれません。最初の一歩を提示すれば、相手もその一歩を楽に踏み出すことができます。(Kindleの位置No.253-255)

例えば、プリントみたいなものをさせる時はいきなり難しいものを持ってこないとかですかね。「あ、これならできそう」と思わせるような作りを目指すってことですね。

タイプ別指導法

また興味深かったのはこれですね。

人は普段、目、耳、感覚を使いながら情報を得ていますが、感覚の得意・不得意や、どの感覚を多く使っているか、少なく使っているかは人によって少し違います。目で情報を得るのが得意な人、目よりも音の方がいいという人。(Kindleの位置No.312)

最近は「常識の範疇」に入ってきていますが、相手に合わせて教え方を変えるということですね。これは以前、何回か書いたことがありますので、過去の記事を参考にしてもらえれば嬉しいです。


まあとにかく、その「タイプ」を診断するチェックリストが本書には載っています。それについてはここでは割愛しますが、おおむね以下の4つにタイプが分かれるということでした。

文字タイプ
音タイプ
図・絵タイプ
感覚タイプ

そしてそれぞれの教える相手のタイプによって教え方を変えよ!という内容が書かれています。まずは自分が何タイプかを知ることから始めたらいいでしょうね。

しかし、一斉授業でどうやって様々なタイプに対応するのでしょうか?まあ少し考えればわかりますが、

・課題や作業にバラエティをもたせる(日替わりでいろいろな課題を組み込む)。
・課題や作業に選択肢を作る(「どれをやってもよろしい」ということにする)。

ということですね。ちなみに私は予想通り「文字タイプ」でした。

まとめ

というわけで『どんな人にもピン!とくる教え方のコツ~上手に伝える5つの質問とタイプ別指導法』という本について見てきました。

語学教育を想定して書かれたものではありませんので、明日の授業から役に立つというものではないですが、「教えるということ」の基本を再確認するという意味では非常に有益な本なのではないかと思います。

あと、思いますけど、こういう本を何度も読むというのは基本概念の強化につながりますね。「教え方の本」は最近よく出ている印象がありますが、肝になる部分はだいたい共通しているような気がします。で、最初読んだ時は「ふむふむ、なるほど」となるんですが、数冊読んでみると、「そんなの知っている」「常識である」とまで思うようになります。

それはいい傾向なのではないでしょうか

例えば好きな作家の本を何冊も何冊も読んでいると、そのうちその作家の新刊を読んでも「あ、おれもそう思っていた」と感じることがあります。でもそれは実は逆なんですね。そういった著者の考えをずっと何度も読んでいたから、自分の考えが著者の考えに似てくるんですね。それが強くなると同化と言っていいくらいになります。

それが「いい傾向」となるためには良書を選んで読む必要があります。良書を選ぶ力をしっかりと涵養したいものです。

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