行動心理学の実験結果を日本語教育場面で考えてみる(2) 取り掛かりを容易に

投稿者: | 2021年4月8日

行動心理学の実験結果を日本語教育場面で考えてみる(1) 決断

↑からの続きです。

池田貴将(2017)『図解 モチベーション大百科』サンクチュアリ出版 を引用しつつ、行動心理学の実験結果を日本語教育現場でどのように応用できるかを考えます。

どのようにすれば学習者が意欲的に日本語の勉強に取り組んでくれるかを考えていきましょう。

小分け戦略

試食調査の協力者たちに、24枚入りのクッキーの箱を渡します。

Aチームの協力者には…
むき出しでクッキーが入っている箱を渡した。

Bチームの協力者には…
1枚1枚、クッキーが個包装されている箱を渡した。

結果

Aチーム
平均して6日間でクッキーを完食した。
(Kindleの位置462)

Bチーム
平均して24日間でクッキーを完食した。
(Kindle 462)

つまりこれは、

必要アクションの数が減ると行動が早まり
必要アクションの数が増えると行動がゆっくりになる。

ということを表しているんですね。

これすごくよく分かりますよね。以前、Udemyで授業を受けた時に私も感じました。講義の内容は素晴らしかったのですが、その講義を聞くまでのステップが多くて、なかなか勉強に取りかかれませんでした。

Udemy 「日本語教師のためのコーチング基礎講座」を受けてきたよ。

↑この記事でそれについても言及しているんですが、とにかく動画を見るまでのステップが多いんです(実際はステップはそんなに多くないんですが心理的なハードルが高い)。

ですから、もし学習者たちに意欲的に何かに取り組んでもらおうと思った場合に、手順を簡略化する、最小化するというところは必ず押さえておかないといけないと思います。私みたいなめんどくさがり屋は、ちょっと手順が複雑なだけでまあいいやと思ってしまうんですよね。

例えばうろ覚えですけど、どこかの会社の社長さんが、自分をフォローしてリツイートをすれば100万円が当たるかもしれないみたいな企画をしていましたよね?手順が簡単だから、というのも応募数が多かった一因だと思います。

反対に、ほら例えば、日本語教師の募集とかやたらと提出書類が多いところってないですか。あれはそういう心理を逆手に取ってるんですよね。ステップを増やして本当にモチベーションの高い人だけに応募してもらおうっていう魂胆があるんですから。

話を元に戻しましょう。

この実験結果から私たちがすべきことは、学習リソースへアクセスするためのステップを最小化するということです。

例えばですね、Facebook グループのことなんですけど、授業資料などをあげる時にPDFなどであげてしまうとダウンロードしなければならなかったりするんですよね。同じ資料でも、それを一手間かけて、JPEGとかPNGであげると学習者の立場からするとタップひとつで見られたりします。

あと、授業の連絡に使うアプリですね。機能的には Google ClassroomのようなLMS の方がいろいろできていいなと思うこともありますが、そもそも Google クラスルームとかって学生はあんまり使わないじゃないですか。それだったら日頃よく使っているアプリを使用したほうがアクセス頻度は上がるんじゃないかなと考えたりします。

まあFacebook なりLMSなりの使用の形はそれぞれの学習機関によって違ってくるとは思いますが、とにかく私たちが考えるべきことは、学習者の手数を最小化することでしょう。

・タップやクリックは最小限に収める。
・ダウンロードはさせない。
・無駄な設問は作らない(アンケートなど)。
・スマホでできることにする。
・指示を簡潔にする。

などなど。

目標設定理論

ある木材の運送業者の運送状況を調査したところ、法律で定められた最大積載量の約60%の量しか積んでいないことがわかりました。



「積載量は上限の94%にするように」と具体的な数字を示してみた。

結果
9ヶ月後、木材は最大積載量の90%まで積まれるようになった。
(Kindle 1094)

これはつまり、

人は求められた以上のことをしない傾向があるが、具体的で、難しすぎず、受け入れられるレベルの目標を提示されると、やる気を出す。
(Kindle 1103)

ということなんですね。まあ、常識としてわかってはいますけどね。

私は、ふと考えると、自分には結構この方法を課していることに気づきました。最近ですと水泳のことです。私は泳げるには泳げるんですが、そんなに長い距離を泳ぐのは出来なかったんです。

で、それを克服するために、初日は20往復から始めて、次の日泳ぐときは21往復、その次は22往復…というように1往復ずつ距離を増やしていきました。そうやって結局100往復くらいまでできるようになったんです。すごくないですか?最初は20往復でもひいひい言ってましたけど。

ジョギングをやっていた時もそういえばそうです。定期的に走っている時は、1回のワークアウトでだいたい10 km ぐらい走るんですが、子供が生まれた時なんかは長期間走ることができませんでした。それで1年ぶりに走り始めようとしてもさすがに10キロとか走れないんですよね。でやはり最初は10分走って引き返してこよう、次は11分走って引き返してこよう…というように距離を伸ばした覚えがあります。

どちらも運動の話になってしまいましたが、これは日本語教育の世界でもいけるんじゃないでしょうか。普通目標から逆算しますよね。例えば 「JLPTの試験の前にこの本一冊を終わらせる!」という目標がある場合、全体のページ数から学習できる日を割って、「一日に〇ページ進めれば一冊終わる!」とか考えるじゃないですか。

でも上の私の運動の経験からすると、「等分はやめた方がいい」と言えるかもしれません。かりに等分して1日4ページやれば一冊終えられるのであれば、最初の一月目は2ページだけ、その次の月は3ページ…などのように増やしていっていいかもしれません。最終的には5ページとか6ページやらないと終わりませんけど、とにかく成功体験を積み上げてちょっとずつ量を増やしていく方がいいんじゃないかなあと思いました。

ピリオダイゼーション

学生たちに「アンケートに答えて提出してくれたら、謝礼として5ドル支払います」と持ちかけます。半数には「締め切りは五日後」と伝え、反芻には提出期限を設定しません。

提出期限はなし → 提出した学生は25%でした。
締め切りは5日後 → 提出した学生は66%でした。
(Kindle 1247)

これはよく分かりますよね。

人は「期限が見えないと、集中できない」ようにできています。
(Kindle 1254)

私もよく思うんですよね、最大のモチベーションは締め切りなんですよね。

もちろん人によって違うと思います。村上春樹なんかは、どこかで読んだ話ですけど、まず自分で小説を書いてみるんですって。で、完成したらそれを然るべき出版社に持っていく。つまり出版社の方からいついつまでにお願いします、というようなお願いを受けていないということですよね。

おそらく自律性の高い人っていうのは、締め切りがあるかどうかはあんまり関係ないと思います。

でも大抵普通の人は締め切りがないと仕事が進まないんですよね。私はどちらかと言うと前もって色々やるタイプなんですが、自分の中で、夜と休日には仕事をしないと言うポリシーがありますので、ある意味自分に決めた締め切りに従って働いてるということにもなります。

とにかく教育現場では、かなり先に必要になることでも、「いつでもいいですよ」というよりは「次の金曜日までにお願いします」とした方が良いということになります。

しかしですね、前回私がアップした話を交えて言うと、「次の金曜日までにお願いします」よりは、「いつまでにできますか?」「次の金曜日までにできると思います」を言わせた方が良いということになりますね。

つまり

自分の口から言わせた締め切りは最強

ということになるでしょうか。ちょっとせこいですけど、

「これは明日までにお願いします、大丈夫ですか?」
「明日まではちょっと…」
「いつまでならできますか?」
「次の金曜までなら…」

という流れを作るのが良いのではないでしょうか。最初に「明日までにお願いします」で、「はい、わかりました」が出ればそれはそれでいいですしね。

まとめ

以上、今回は三つのことについて考えてみました。まとめますと、

・学習リソースへのアクセスを最短化する。
・具体的な目標を示し、少しずつ要求を高くする。
・締め切りを自分の口から言わせる

このような仕掛けを作ることによって、学習者の学習への取り掛かりのためのハードルを下げることができるのではないでしょうか。

池田貴将(2017)『図解 モチベーション大百科』サンクチュアリ出版 ここから発展した話が何らかのヒントになれば幸いです。このシリーズはまだまだ続きます。

続きはこちら↓

行動心理学の実験結果を日本語教育場面で考えてみる(3) 仕事術

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