カンボジアで日本語教育に携わった時の記録~仕事編~

投稿者: | 2022年4月14日

私は2019年から2022年にかけて、カンボジアの首都であるプノンペンで日本語教育に従事しました。その間に得たことを、ここで少しまとめてみたいと思います。

このエントリーは、以下の人を読者として想定しています。
 ・これからカンボジアで日本語教師として働く予定の人
 ・これからカンボジアで日本語教師として働きたいと考えている人

 ・これからカンボジアで日本語教師として働いてみるのも悪くないと考えている人

ただ、ですね、私は「カンボジアで日本語教育に携わった」と言いましても、カンボジアも広いですし、3年くらいで一個人が知りえること、経験できることには限りがあります。

ですから、在住歴が長い人、過去にカンボジアで日本語教育に従事したしたなどが読むと「?」と思う部分もあるかもしれません。私は、自分が知りえたこと・自分が感じたことを、自分なりのフィルターにかけて書いていきます。同意しかねる部分があっても、それは「私にとっての真実」であることには間違いありませんので、そういう前提で読んでもらえると助かります。あくまでも一個人の見解ですよ、ということです。また、生活面につきましては次の生活編で書いていこうと思います。

カンボジアにおける日本語①

国際交流基金がおこなった2018年の日本語教育機関調査では、カンボジアの学習者数は5419人と出ています。これは世界の国々の中で27位だそうです。隣国のタイは5位、ベトナムは6位で、それぞれ180万人程度の学習者が報告されていますから、それと比べてもカンボジアの日本語学習者がそれほど多くないことはわかるでしょう。

肌感覚としても同じです。3年暮らした中で、知らない現地の人に日本語で話しかけられることはほとんどありませんでした(アンコールワットの都市シェムリアップなどでは別)。外国に住んだ経験がある方はわかると思いますが、生活していてなんらかのかかわりを持った現地の人(店員、運転手など)から「実は私も日本に住んでました」とか「日本語勉強しました」とか声をかけられることは結構ありますよね。でも、カンボジアではほとんどありませんでした。英語で話しかけられ「ARIGATO」とか「AJINOMOTO」とかぶっこんでくる人はいましたけどね(笑)

「それはお前がいつも仏頂面だからではないのか?」というご指摘もあろうことでしょうけど、おかしなことに「韓国人ですか?」と聞かれ、「わたし韓国で働いていたんだよね~」と韓国語で懐かし気に話しかけられることは数回あったんですよね。

またですね、私の担当していたクラスの学習者に聞いても「友達の中で日本語を勉強している人はいない」という人が多かったですし、「なんで日本語を勉強するの?とよく質問される」という人もいました。つまり、日本語学習がそれほどメジャーではないということですね。

しかし、日本という国についてはそれなりに良いイメージを持っている人が多いのではないか、という印象を受けました。テレビをつけて現地のニュースなんかを見ていると、よく日本の大使がテレビに出ていました。大抵は「日本がカンボジアに対してなんちゃらの援助をします」というようなことでした。

あと、トゥクトゥクに乗った時もよくドライバーの人に「日本が好きだ」というようなことを言われました。もちろんこれはお客さんに対するリップサービスの一面もあるでしょうが、普通嫌いだったらそんな言葉出ないですよね。

私の印象としましては、日本語はマイナーであるが、日本に対する漠然とした信頼は厚い、といったところでしょうかね。国際的、一般的な日本のイメージと同じですね。

カンボジアにおける日本語②

カンボジアは割と英語が通じる、と言われます。私もそう思います。私の職場の公用語は英語でしたし、主だった会議はほとんど英語でおこなわれていました。また私の職場で日本語を勉強していた学習者もほとんどは流暢な英語を話していました。

もちろんすべての人がそうだというわけではありません。全然できない人もいっぱいいますし、地方に行けばもっとできない人は増えるでしょう。

でも、英語が若者の立身出世の基本スペックに数えられているのは間違いありませんし、今後も英語話者人口は増えるでしょう。日系企業なんかでも、少ない日本語人材の中で人を探すことをせずに、「日本語ができなくてもいいから、優秀な人を」ということで英語人材を中心に探すところもあるみたいです。

というわけで、(他国と同様)英語の地位はゆるぎないものですが、日本語が敬遠されがちなのはやはり難しいから、というのもあるのではないかと思います。

カンボジアの言葉であるクメール語は、私も行くまでは知りませんでしたが、「孤立語」に分類される語です。簡単に言えば、活用はなく、単語の順番を並び替えて表現をする類の言葉ですね。中国語とかと同じですね。

英語は「屈折語」とも言われますが、ヨーロッパのほかの言語ほど複雑な活用はなく、極めて「孤立語」的だと思います。ですから、カンボジア人の人にとっては割と習いやすい言語であるのは間違いないと思います(実際クメール語からの直訳調の英語表現をする人も少なくなかった)。

しかし、日本語は「膠着語」で、クメール語にはない「助詞」や「活用」がありますから、それを理解しがたい、と思う人も少なくないでしょう。そして前の話に戻りますが、英語ができればどうにかなる環境なので、強い日本語学習への動機がないとなかなか学習が進まないという側面もあるのではないかと思います。

余談ですが、やはり日本語が上手な人は同じ膠着語を母語としている人が多いような気がします(韓国人とかモンゴル人とか)。中国人は孤立語である中国語を母語としていますが、漢字を日本語と共有しているという点でアドバンテージがありますしね。もちろん母語がどういう系統のものであろうと、とても流暢に日本語を話す人はいますけどね。あくまでも「傾向」の話です。

多様な日本語教育機関

それでも日本語を勉強している人は一定数存在します(当然ですけど)。テキトーにくくってみると以下のような分類になるのではないでしょうか。

・学校教育系
・語学学校系
・送り出し系
・ボランティア系

学校教育系は大学とその他の教育段階に分かれますが、中等教育段階や初等教育段階では公的な日本語教育はおこなわれていませんので、散発的なものになっています。何か日本や日本語とかかわりのある学校や地域では細々と日本語が学ばれることがあるみたいです。

あとは、大学ですね。私の知るところですと、学科として「日本語」と名の付くところは2校しかありません。それ以外でも大学内で日本語教育が行われることもありますが、企業や団体が入って大学の建物を間借りしたり、大学の正課とは別に日本語教育を行っている場合がほとんどみたいです。

語学学校系は、学校教育とは別に学習者から月謝などをとって日本語教育を提供しているところですね。これもありますが、そんなにたくさんはないかな~という印象です。その代表格が私が勤務したCJCCですね。

送り出し系は、日本で技能実習生として働く人たちを送り出すための機関です。「系」とした理由は、必ずしも送り出し機能を持っていない教育機関もあるからです。とにかく日本で働くことを前提として日本語教育をおこなっている機関です。これは結構あります。オフィシャルに発表されている送り出し機関だけで100ほどありますからね。

ボランティア系は、その名の通り無償で日本語教育を提供する機関です。これがカンボジアには結構あります。日本の企業を母体とするボランティア団体とかが日本語教育を提供する場合もありますし、個人の善意で運営されている学校などもあるみたいです。

あと、寺院などで日本語教育が提供されることもあるみたいです。実際に「なんとか寺で日本語を学びました」という日本語話者にも結構出会いました。これもボランティア系でしょうかね。

というわけで4つのカテゴリー分けをおこないましたが、ボリュームゾーンとしてはどうでしょう、やっぱり送り出し系でしょうかね。新型コロナのために、送り出しができない期間が続きましたが、これからどう増えていくか気になるところです。

同じクメール語を母語とするカンボジア人を相手にしても、どういった機関で日本語教育をおこなうかによってその内実はだいぶ変わってきます。たとえば、私の勤務したところでは、割と教育水準の高い家庭の子弟などが通っていましたので、上述したように英語話者が多かったです。そのため、学習者に「英語で説明してください」などと言われたこともありますし、ネイティブの日本語教師にはそれ(媒介語としての英語の使用)を期待しているようなところがありました(こちらの英語力も知らずに(笑))。

一方、送り出し機関などでは少なくとも高等教育まで受けたという人はいないでしょうし、英語話者もあまりいないと考えられます。そうすると媒介語はクメール語ということになるでしょうし、また直接法での指導についても教育水準の高い人や、すでに外国語学習経験がある人ほどにはついてこられないかもしれません。

まあそれは、どこの国でも同じかもしれませんが、日本などよりも教育格差は大きいと考えられますので、注意が必要です。

カンボジアでの日本語教師の求人

日本語母語話者の日本語教師としての求人は、そんなに多くありませんが、ないことはありません。私の勤務していたCJCCでは退職者が出るたびに募集をおこなっていましたし、送り出し機関でもちらほら求人情報が見られます。

求人の探し方はほかの日本語教育求人情報と同じです。インターネットの日本語教師求人のサイトを見ればいいでしょう。あと、送り出し系は「東南アジア転職」とかそういう方面の求人サイトに出ることもあります。

また、カンボジア関連の日本語教育情報コミュニティとしては、以下があります。

カンボジア 日本語教育

↑は私が立ち上げたFBのグループページですが、だれでも簡単な質問に答えるだけでコミュニティに入ることができます。時々求人情報なども出ることがありますので、チェックしておくのもよいと思います。何か質問などすれば、誰かが答えてくれるかもしれません。

給与レンジは、うーんこれは私はよくわかりませんが、800ドル~1500ドルっていうところでしょうか。よく「それで生活できるのか?」という質問を受けますが、こればかりは「その人の暮らし方による」としか言えませんね。ただ、800ドルの給料から家賃を払っても、一人なら生活できない額ではありません。私なら余裕です。

お金や物価関連については、後で「生活編」に書くことにします。

カンボジアに渡航する前に

カンボジアに限った話ではありませんが、日本語教育のテキストや書籍はあまり手に入りません。現地では「みんなの日本語」の初級は販売されていますが、ほかに目ぼしいものはありません。

ですから、教材関係は持って行ってもいいかもしれません。ただ、私もテキストや関連書籍をある程度持って行ったんですけど、あまり役には立ちませんでした。って言ったら語弊がありますが、私の勤務先には図書館があって、そこそこ書籍が充実していたからです。私の持って行った本の半分くらいはそこにあったと思います。

また、どうしても欲しいものがあれば、アマゾンで注文してもいいかもしれませんね。配送料は少しかかりますが、DHLで届けてくれるので確実に届くみたいです。

私がもう一度行くなら、多分本は何も持って行かないと思いますが、その辺は個人の判断になりますね。手元に参考書的なものを置きたいならやはり持って行った方がいいですし、ネット上の参考資料だけでも事足りるというのであれば、何も要らないでしょう。

とにかく、オフラインではあまり書籍は手に入らないよ、という話です。

さいごに

というわけで、非常に簡単ではありますが、カンボジアの日本語教育事情について書いてみました。

こんなんじゃわかんないよ、という内容ですが、最大公約数的なものを書くのも結構難しいのですよ(笑)個別の機関について言及するのもあれですしね。

とにかく、何か参考になる部分が一つでもあれば幸いです。次には、「生活編」を書きます。

カンボジアで日本語教育に携わった時の記録~生活編~

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