「日本語教師のための はじめてのコーチング」

投稿者: | 2023年1月19日

吉田有美(2022)『日本語教師のための はじめてのコーチング』アスク

2022年12月に出た最新刊です。著者の吉田氏につきましてはTwitterで以前から交流があり、かつメーリングリストにも登録させていただいています。いつも学びの機会をいただいてきました。

また以前私がカンボジアにいた時には、私の所属機関が主催するセミナーに氏をお呼びし講演していただいたという縁もあります。当然その講演も大変好評でした。

「コーチング入門」ワークショップでの気づき3点

とにかく吉田氏が本を出されるということで、電子版があると知るや否や購入させていただきました。今日はその本を読んで私が感じたことを3点ほどご紹介させていただきます。

ピンポイントで実践的な内容

「コーチング」という言葉はどこかで聞いたことがある人もいるかと思います。私も書籍を何冊か読んだことがありますので、「まあ、あれでしょ」くらいの認識はあります。

「承認・傾聴・質問」とか「4つのコミュニケーションスタイル」とかそういうのですかね。ただ、それはそれでいいとしても結局いつも情報として終わってしまうんですよね。しかしこの本はタイトルに

日本語教師のための

という枕言葉がついている通り、コーチングスキルの日本語教育シーンでの適用に焦点を当てて書かれているため、非常に実践的です。どこが実践的かと言いますと、まあ全編を通してそうなのですが、私が印章に残っているのは最後のパート3「日本語教師がコーチングを活かすためのQ &A」の部分です。

ここでは「ありがちな日本語教師からの質問」に対してコーチング的な対応はいかにおこなうかの例示がなされているんですが、それらが全て

むっちゃありがちな質問

なんです。いくつか挙げますと・・・

・アドバイスをきかない学習者がいます
・難しいことをしたがる学習がいます
・基礎的なことができていない学習者がいます
・どんどんできる学習者には何をしてあげたらいいですか?
・褒めるところが見つからないんです
・グループワークに消極的な学習者がいます

ね?ありがちですよね?

コーチングの本って、ビジネスシーン(上司として部下をどう扱うかなど)での適用などを中心に書かれているものが結構あって、それはそれで読んでいて役にたつ部分もあるんですけどやっぱ他人事なんですよね。でもこの本ではそういう「あるある」的な細かいところでの対応のコーチング的な実例や考え方が紹介されてあり超実践的です。

とは言え、この本も一度読んでほったらかしにしていたら内容を忘れてしまいますから、何か困ったことや対処が難しい学習者に接したときなんかはその都度読み直したらいいんじゃないかと思います。

一人コーチング

読みながら一つ思ったことがあります。それは、

自分をコーチングしたらいいんじゃない?

ということです。私も日本語教師の末席に名を連ねる者の一人ですが、それと同時に外国語学習者でもあります。今は主に、中国語と英語の学習をしています。

どちらの言語とも一応オンラインで授業を受けてはいますけど、どちらの先生も決められた時間(1セッション25分)の中で決められたことをやってくれるリソースの一つにしか過ぎません。授業時間は先生の指示に従いますけど、どういった授業にするかを決めるのも私ですし、教材を決めるのも私です。私の学びをコーディネイトしてくれる人はいなくて、私は自分自身の学びを自分でコーチングする必要があるわけです(多かれ少なかれ誰でもそうですが)。

まあ、私は細々と語学教師を続けてきていますから、外国語学習については一般の人々よりは知見があります。ただし、なんでもそうですけど「自分のことは見えにくい」という部分はあると思います。だからこそ積極的な一人コーチングが必要かなと思いました(コーチングしてくれるような人がいればなおいいわけですが)。

そんな時に役立つのが本書パート2の内容です。このパートは「日本語教師のためのコーチングレッスン」というタイトルがついていますが、コーチが私、学習者も私ということで状況に入っていけば良いのです。例えば以下のようなことについて詳しく書かれています。

・目標設定の仕方
・なぜ、それが大事か問いかける
・目標達成のイメージを共有する
・課題を明らかにする
・学習が進む環境に身を置く
・既にある学習リソースを使う
・迷わず取り掛かる仕組みを整える

こういったことについてのコーチングの具体例が書かれていますので、折に触れて自分にその質問や対応を投げかけてみれば良いと。言ってみれば、定期的に自分の学びを修正・評価する指針になるかと思います。

余談ですが、「フィードバック」というのはなかなか一人では難しいですけど、最近使っているAIは結構役に立っています。作文の添削もそうですし、見慣れない単語を使った例文なども瞬時に作ってくれます。また内容面に関してもコメントをしてくれ、かつ労いや励ましの言葉もいただけますので、私は今の所非常に気に入っています。これも学習リソースの一つですね。

AIにテキトー三行日記を添削してもらう〜ChatGPT先生

安心できる環境

p110にこんな記述があります。

コーチが心理的な安全性に配慮し、学習者が安心して間違えたり、質問したりできる環境を作る。

これはコーチングの文脈でなくてもそうだと思いますけど、安心できる環境を積極的作るのは、もしかしたら教師の第一番目の仕事かもしれません。

特に最近そう思います。

私は毎日25分だけ授業を受けていますけど、「安心できるか」が最も重視するポイントです。ここでの安心っていうのは「私の言うことに耳を傾けてくれるか」ということです。これができていない先生は1日でクビにしてしまいます(笑)。

まずはこれだけでも実践したいと固く思いました。相手の話をしっかり聞く。誠意を持って対応する。一人一人を尊重する・・・少なくとも私という存在が学習者にとってのストレスになってはいけない。。。

それが仕事以外でも実践できるようになればいいんですが。

・・・ということまで考えさせられました。

まとめ

といったわけで、吉田有美(2022)『日本語教師のための はじめてのコーチング』アスクについて簡単にご紹介させていただきました。

途中触れましたように、折に触れて辞書的な使い方もできるような本です。また、これから求められるのは「ある文法項目の使い分け」とかよりもこういうことだと思いますので、日本語教師の基礎中の基礎として読んでおいても損はない本だと思います。

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