今回のXリーディング対象本はこれ。
野口・大須賀(編)(2023)『はじめてみませんか リレー作文 新しい共同学主婦の試み』ココ出版
180度変わった!
いや180度どころじゃなく、
360度変わったかもしれん!
1周回っちゃいましたが、まあ細かいことは気にしないでほしい。とにかくむっちゃ勉強になりました。
この本を読めば、リレー作文の要諦については大体わかるみたいな本です。以下私のちょまちょまつけた記録を公開していきます。
ちなみにXのリンクも貼っときます。↓に書いているものと同じものですが。
野口・大須賀(編)『はじめてみませんか リレー作文』ココ出版 https://t.co/wCTsr2j7tW
— さくま しろう(佐久間司郎) (@shirogb250) July 5, 2024
を読み進めていきます。
第1章 リレー作文・理論的背景・社会的背景
本書で援用されるであろう各種理論について簡単に説明してある。
・「相互行為仮説」「アウトプット仮説」
・「社会文化理論」「拡張型活動理論」「ソーシャルネットワーキングアプローチ」
こうやって冒頭に理論的な背景を書き出してくれると、読む方は後で参照しやすいだろうな、と思いました。また同時に、「活動集」のような軽めの本ではなさそうということを予見させますね。
第2章【評価法】アメリカからリレー作文の評価法を考える
私の理解では、リレー作文においては、「成果物としての作文をどう評価するか」と、「協働学習における協働面をどう評価するか」の二つの指標を準備しておくのが良いということらしい。
作文の評価方法や協働の評価方法が簡潔にまとめられていて参考になる。
教師はしっかり目的と評価法を説明しておく必要があるとのこと。「目的、評価法、配点が明確でないと学習意欲にもつながらない可能性がある」(p35)
第3章 リレー作文の進め方・タスク活動・実践例
具体的な活動の進め方が書かれている。周辺の事柄で説明が必要なことはたくさんあるだろうが、まずは「リレー作文がどういうものか」がわかる。いくつか疑問が浮かんだが、おそらく後続の章で説明されるだろうという予感。
「リレー作文」と聞いたとき、「バトンが回ってくるまでの間はどうするんだろうか」という疑問が真っ先に浮かんだが、それについても回答がなされている。
4人メンバーがいたとしたら、4つの話を作る。それぞれが4つの物語の第一走者になってバトンを回せば良い。(p40、p41)おーこれは素晴らしい。
初級から上級まで、さまざまな活動が提示されている。絵を使ったり、ディクトグロスの手法を取り入れたり、なかなか面白そう。次節以降への期待が高まります。
第4章【香港・初級】時系列と起承転結を使った創作活動
香港での実践例が紹介されている。どうも作文と言うともう少しレベルが上の活動を想像しがちだけど、初級でも全然いけそうだな、と思った。具体例を見て、リレー作文が一気にクリアになった感じ。
時系列とか起承転結という枠を使うと、話の展開が雑にならないとのこと(p69)。
なるほど、起承転結とか三部構成とかを学ぶ良い機会にもなるなと思いました。初級から一文ずつのリレー作文を取り入れるのはいろんな効果がありそう。
何も難しいことを書く必要はない。「○○さんの1日」というタイトルで、一文だけでバトンを繋いでいけばいいだけ。よく初級で「私の1日」とか書かされたり言わされたりするけど、リレー作文という手段を持つことで活動の幅が広がりそうですね。
第5章 【アメリカ・ゼロ初級】修正活動と使用された語彙・文型・文法そして文章の結束性・一貫性
オンラインでおこなったリレー作文の報告。過去の反省を踏まえて改善された活動内容について書かれている。例えば前活動として、一人で書く活動を入れるなど。
Zoom上での活動はかなりややこしそうだが、その手順や要点が説明されていて、自分でもできそうだと思った。あとは、成果物についての簡単な分析もされており、それも興味深い。
自分の考えで文を作るのは教師によって用意された型にはまった活動とは異なり、「今後学習者が自在に語彙、文型・文法を操るようにしていくための一助になりうる」(p99)
読みながら全く同じこと考えてました。。
また詳述は避けるが、文章の結束性、内容の一貫性を重んじるような活動になっているため、その要素も少しずつ涵養していくことができるとのこと(p100)。なるほど。これは一朝一夕には身につかないので、早くからやっておくのは良いとも主張している。
前章と同じくめっちゃ勉強になった。短い文章の中に重要なことがたくさん詰め込められていた。過不足ない内容で、書き方も見習いたいとも思いました。
第6章【アメリカ・ゼロ初級】短文完成タスク
「Aさんは昨日宿題をして遊びました」程度の文を作るリレー作文について。
主眼は学習者がどのように協働しているかという点にある。この例では協働がうまく行っている(もちろん著者も一般化はできないと言っている)。
まずリレー作文をさせて→グループディスカッションによる修正→教師による暗示的な指摘を受けての修正加筆、という流れは非常に良いと思いました。
第7章【アメリカ・中級】21世紀スキルに基づく目標設定と評価
21世紀スキルの文脈でリレー作文をおこなっている。
採点表などもあり、この文脈で活動を考える人には役立つだろう。
中級ということで、ある程度量のある文章を3人で書く実践が報告されている。提示されている例は「序論、本論、結論」がうまく書かれているが、著者も指摘するように「並べるだけの作業」になるグループもあるだろうことが推察されますね。
第8章【韓国・上級】授業実践に向けたパイロットスタディ
リレー作文を本格的に行う前に4、5人でおこなったパイロット授業の報告。4、5人で創作をリレー作文している。この活動を希望してやってきただけありレベルが高い。
このレベルまで来ると、語学教育の文脈とはちょっと違った感じだなと思った。また、前の人が書くのを待っていないといけないので、結構待ち時間が長くなる(一人当たり20分程度で書く)。仮に4人でやったら、60分は待ち時間ということになる。この辺をどうするかのアイディアを聞きたい。
第9章【日本・上級】プロジェクト型学習で語彙知識はどう変化したか
PBLにリレー作文を取り入れた活動内容が紹介されている。最終的な成果物はYoutube上でビデオになっている。
この報告で分析しているのは、この活動を通じて語彙知識がどのように変化したかという点。作文からビデオ作成までするので当然関連分野の語彙知識は増えるという結果に。ただ、やはりグループ活動にうまくコミットできなかった学習者は語彙知識にあまり変化がなかったとのこと。
【Beyond the Yellow Line 黄ら黄ら// Sex Industry in Japan// 日本の風俗】
全部見てないけど、1時間ほどの大作。担当教員もここまでのものができるとは想像していなかったんじゃないでしょうか。
【美しい地球を守ろう〜レジ袋による日本のゴミ問題】
10分程度の作品。よく調べてあり、わかりやすいです。映像編集に慣れたメンバーがいなくて苦労したそうです。
第10章【日本・上級+母語話者】ナラトロジーの観点から直示表現と焦点化効果の分析
リレー作文の書き手として日本語母語話者が入る試み。そうやってできた文章の表現を授受表現、「〜ていく」「〜てくる」を中心に考察している。大変興味深い。
書き手に日本語母語話者が加わることについて、「「あまり恥ずかしいもの、書けない」という責任感が日本語学習者の心理として働く」(p189)と論じており、納得するとともに少し笑った(笑)
上級者なのでかなり筆力はあるのだが、それでもやはりうまく書けていないところがあり、それが明らかになっていて面白かった。
第11章【日本・日本語教師/日本語教師志望者】リレー作文の可能性を拓く
まとめ的な位置付け。教師研修の一環として、リレー作文を取り入れた話。
リレー作文はいろいろな側面を持っている。学習者が行う場合は日本語力の向上ということに焦点が置かれるだろう。だけど、日本語母語話者などでやると、他者を尊重するとか、他者の視点に立ってみるなどの学びが生まれたりもする。非常に懐の深い活動であると思う。
過去のXリーディングのリンク
🔳『Can-doで教える 課題遂行型の日本語教育』
🔳『言語はどのように学ばれるか』
🔳『協働が拓く多様な実践』
🔳『AI時代の冒険家メソッド』
🔳「教師のためのChatGPTガイド」
🔳『日本語教師の専門性を考える』
🔳『学習者を支援する日本語指導法I 音声 語彙 読解 聴解』
🔳『私たちはどう学んでいるのか』