私の所属機関では、数年間続いた「文字コース」を廃止することになりました。「文字コース」とは正規の課程に入る前に、「ひらがなとカタカナの読み書きだけを練習するコース(2時間×8回=16時間)」のことです。
廃止に至る経緯について書くと、それだけで一つの記事になってしまいますので(しかもあんまり面白くない)割愛しますが、とにかく「文字コース」がなくなるのです。それについて考えていたら、「そもそも他の国や他の学校ではどのくらいの時間をかけて文字の導入をおこなっているのだろうか?」ということが気になってきました。
おそらく学術的な論文があると踏んで、サラッとググってみたんですがめぼしい物はヒットしませんでした。そこで以下のような問いをTwitterで立ててみました。
【教えてください】
— SAKUMA SHIRO (@shirogb250) September 16, 2019
みなさんの所属機関では0スタートのコースを始めるとき、「文字の読み書き」に費やす時間はどのくらいでしょうか?
例えば私が前に働いていた韓国の大学では「50分×2コマ×3日」=5時間を「ひらがなの読み書き」に費やして、その後の授業から第一課的なところに進んでいました。
文字導入の4分類
何ということのない問いだったのですが、思ったよりも多くの方々に回答してもらえました。いろいろな答えがあって面白かったのですが、それらの回答をじっと眺めていると、文字導入もいくつかの類型に分かれることに気付きました。
以下、今後長らく日本語教育界において言及されるであろう「文字導入の4分類(「佐久間の4分類」とも言われる)」を発表します。
1)ガッツリ系
2)ちょっぴり系
3)自律系
4)並行系
1)ガッツリ系
まずはガッツリ系です。おそらく腰を落ち着けて学習できる環境の機関で取り入れられている方法であると推測されます。民間の語学スクールなどでは難しいと思いますが、単位が出るとか、なにか壮大な目標があって学習をしているという場合には最初に文字をガッツリやっておく、というのがいいのかもしれません。
ベトナムです。あ行〜ん、濁音、半濁音、促音、長音、拗音、外来語音まで、「読み書き」+「発音」の徹底で、あえて30時間使っています。ベトナム語の自分の名前を、カタカナで書くことができて、発音できるまで。最初にちゃんとやっておくと、その後がお互いに(学生も、教師側も)楽ですね。
— T.JINNAI@VN (@TsutomukunJ) September 16, 2019
高校ですが、一年生だと週10コマ程度(40分)×1ヶ月目安に復習も合わせて教えてます。穴埋めや単語の片仮名を平仮名するなど、小テストなどもしています。
— うちこ@🇨🇳日本語教師 (@uchi_jp) September 16, 2019
15人ほどですが、2週間で9割の学生が9割方覚えています。
高校や中学など、年少者の教育ですと、後述する「自律系」などは難しいかもしれません。学習時間をしっかりと授業時間に確保して、パズル感覚で文字を覚えていくのも悪くないと思います。
2)ちょっぴり系
おそらくこの系がもっとも多いのではないでしょうか。最初の数時間を文字の読みルールの説明などに当てて、その数時間で全部覚えなくても、後は授業を進めながら徐々に覚えていってもらう、というパターンですね。
クラスの約7割は高校で勉強したことがある既習者なんですが、学期開始前に、準備コースとして2年生が1年生に平仮名の読み書きを2~3時間教えています。
— ばらじゅん ̄⛈️🇹🇭 (@barajun) September 16, 2019
授業開始後は、平仮名は50分×4回、片仮名は50分×2回。
50分、文字を教えて、その後の50分で教科書の内容(1課~2課)も教えています。
さくまさんと全く同じ時間数をあてています(100分/週1、3週で)。ですがこの内に挨拶や授業用語、発音など音をたくさん聞いてもらうことも含めていて、特に書きについては自宅学習が中心に..なってます。厳密に言うと最近は全くの入門者はいないのでこれがいいのかわかりません😅
— いちほい🍒🌖 (@ichgohoippu) September 16, 2019
地域の日本語教室でしたが、
— よどご りりと⚾️日本語教師 (@yodogoririto) September 16, 2019
1日目 あ行〜な行
2日目 は行〜ん
3日目 濁音半濁音
4日目 促音長音拗音
をしました。1コマ45分です。
教室自体は一日2コマですが、1コマはひらがな、もう1コマは挨拶練習です。
去年までフランスの成人向け講座にいました。「まるごと」使用で、入門りかい1、2課計3時間程度で読みの活動をやり、書けるようになるのは強要しませんが、次の初級1コースに行くまでにはマスターしてね、とまるごとPlus と文字アプリで独習を促しました。
— Makoto SAITO (@panachesvp) September 16, 2019
3)自律系
自律的な学習ができる場合は、「勝手に覚えてきてください」という自律系が最も効率的ですね。日本語のひらがななんかは、形と音が一致すればいいわけですから、自律学習のハードルはそれほど高くないのではないでしょうか(って学習者の人に言ったら怒られますかね)。
たとえば、↓のような動画を一本渡しておけばいいわけですよね。
卒業生はホテルやレストランで働くことが多いから日本語が必要みたいですね。実はYouTubeの動画はその大学の授業に沿って作ったので、分け方も清音、濁音、拗音、促音長音になってます。良かったらご参考にhttps://t.co/WkBeEJLkOp
— Missar先生 (@Missar49277444) September 16, 2019
↓の2つはかなり潔い自律系です。
ウチでは文字の読み書きは自分でやって来るのを前提にカリキュラムが組まれています。
— GB Taka (@GB_Taka1) September 16, 2019
前任地のブダペストでは、自分で勉強してくることになっていました。(つまり講座では扱っていませんでした)
— Yoshifumi Murakami (@Midogonpapa) September 16, 2019
↑そんなコースがあるとは想像もしていませんでした。
週1回大学の一般教養の必修科目の位置づけで「まるごとA1かつどう」を使っていましたが、教室外でみなとのひらがなとカタカナのコースを各自にやらせ、修了証を提出させていました。
— Laila (@lailamasr) September 16, 2019
↑現代的ですよね〜
あと、↓は「ちょっぴり・自律系」ですかね。授業で文字を覚える時間を取るが、その時間の使い方は学習者に任せる、みたいな方法です。私も一時そうやってみようと構想は練ったことがあるのですが、どうも踏み切れませんでした。
は、自分で進めてねという感じにすると思います。ただお菓子争奪のグループワークにして、ひらがなの読み書きが200分でおわったりしないか、試してみたいという衝動に今かられています。(^^;;
— Taiwan abe (@jptwabe) September 16, 2019
4)並行系
これは文字の導入と、いわゆる本課を同時進行的にやっていくというハイブリッド方式ですね(使い方違いますか?)。これがうまく決まればかっこいいよな〜と思いました。教師としての力量が最も問われそうな方法ではないでしょうか。
日本語学校A(1日4コマ)の例ですが、授業1日目からみん日第1課に入り、並行して1日目にひらがな読み全導入、2日目以降ひらがな読みを練習しつつカタカナ読みを2行(ア〜コ)ずつ導入しました。途中ひらがなは2行ずつの書き練習に移行し、それが終わればカタカナ読み書き、計1ヶ月で終了です。
— Sugar (@Sugar5815224) September 16, 2019
1コマ1時間半や2時間の場合、読み書きだけですごすのはしんどいので、初めから文字以外のことをやってます。
— Hiroko, Nakayama (@hirokonihongo) September 16, 2019
濁音とかも含め15分×10日ってところです。
— Aya (@aya_nihongo) September 16, 2019
文法と表現の導入も初日から同時進行で行きます👍
まとめ
というわけで、文字の導入は大きく4つのタイプに分類されることを見てきました。もちろん、どれが良いとか悪いとかいうことはありません。
大事なのはその学習機関や学習者の特性に応じて、コースデザインをするということですね。面白くない教科書的まとめになってしまいましたが、コースデザインをする上で、こういった「4つのタイプがある」と頭に入れておくことは実は大事なことかもしれません。
そうでないと、何も考えず「最初の自分の所属機関で取っていた方法」を採用してしまうなんてことも起きかねません。
また、この4つのタイプははっきりと区別されるものではなくて、それぞれが連続性を持っています。ちょっぴり系だけど自律系的な要素を入れるとか、ガッツリ系だけど要所要所で並行系的にすすめるとか。
ぜひみなさんも、この4つのタイプを今後の文字導入を考える上で参考にしてください。