半端ない!笈川式日本語合宿授業潜入記③

投稿者: | 2018年8月7日

半端ない!笈川式日本語合宿授業潜入記①
半端ない!笈川式日本語合宿授業潜入記②からの続きです。

これまでの記事では、笈川メソッドによる授業の進め方や、その周辺のテクニック、活動などについて見てきました。でも、この合宿授業は綿密な授業プランだけで成り立っているわけではないようです。その教授法には圧倒されましたが、それと同じかそれ以上の部分において魅力的な「先生」たちがいるからこそ、10日間の厳しい訓練?にも学生たちが耐えられるのではないかと思いました。

今回はその合宿授業を支える笈川先生以外の教師陣について書きます。(実名を上げていきますが、何か問題があればご報告ください。即削除いたします。)

笈川式授業を支える中国人コンビ!

まず、言及すべきは汪斉先生と崔文超先生でしょう。私の理解が正しければ、Jaslonという笈川先生が作った会社組織の一員ということで、文字通り笈川先生の右腕左腕となって奔走していらっしゃいます。合宿の運営面においても中核を担っているらしく、韓国から駆けつける私との調整なども全てこのお二人がおこなってくださり、何の不自由や心配もなく合宿授業に合流することができました。

もちろんその事務処理能力だけでも素晴らしいと思いますが、それはまた別の話です。教師としての働きの方を見ていきましょう。

まず、両先生とも通訳の能力が素晴らしい!笈川先生の一語一語を間髪入れず、淀みなく中国語に訳していきます。私は中国語がわかりませんが、そのテンポ・リズムなどだけでも相当経験を積んでいるということがわかります。特に汪先生の通訳を見ていて面白いのは、笈川先生が日本語を話したときには学習者から笑いが入らないのに、時々中国語の通訳の後で笑いが入ることがあるんですね。

その理由について中国語がわかる人に聞いてみたところ、「流行語っぽいものを使っている」とか「言い方が面白い」というような理由だったようです。ともかくテンポよく、ほどよく笑いを取り入れ活動にリズムを生み出す通訳はプロの技だと思いました。授業の基本はでも述べたように「朗読」ですから、リズムやテンポを保っておくのは通訳でも大事なのでしょう。

また今回は超級クラスというのが用意されており、レベルの高い学生たちは別室で授業を受けていました。そちらを崔先生が主に担当されていたのですが、やっていることは大講堂の笈川先生と同じです。20名ほどの少人数ではありましたが、朗読をおこなっていました。

ほぼネイティブ並みの日本語能力で堂々と授業を展開されているのを見て、笈川奈弥先生に聞いてみたところ、

「いや~彼にはやっと最近授業を任せられるようになったんですよ。」
「ええええ~すごいベテランに見えますけど?」
「堂々とやらないと学生がついてこない、というのは主人(笈川先生)が叩き込んだんです。」

とのことでした。

個性的な日本人教師陣

私のように「見学」という立場の日本人教師も数人いましたが、舞台上に立ったりして授業にコアに関わっている、と見受けられた日本人教師は3名です。3名とも中国の教育機関で日本語教育に従事されているとのことでした。

●南通職業大学 森先生

もう10回ほど、この合宿に参加されているとのことでした。主に歌やダンスの授業を担当されていました。これらの活動の運営は全て森先生が取り仕切られているようでした。

下駄を履いていて、飄々と歩き回られているのですが、舞台上に立つと本当に面白い話をします。2日目の午前授業の終わりに「総評」みたなものを述べられました。普通ならそういうときは「早く終われ~」的な雰囲気になるのですが(実際この話が終われば昼休みという状況でした)、話が面白いので学生、教師みんな身を乗り出して聞いていました

私も数回舞台上でマイクを握って話をする機会がありましたが、なかなか言うことを頭の中でまとめることができず冷や汗をかきました。森先生の落ち着きと、舞台上での話術は大陸のスケールだな~と思いました。

●湖南大学 瀬口誠先生

合宿授業の途中で、作文の時間になりました。例によって「型」の朗読が終わった後、「400字程度で、以前の私、今の私、こ後の私」というテーマで作文をしなさい!という話が笈川先生からなされました。学生たちは各自スマホで作文をおこなうのですが、その時笈川先生が一言。

「瀬口先生、どうせなら、うまく書けた学生には賞を上げましょうか?いくつか良い作品を選んでください!」

瀬口先生は「いいですね~」と同意されていましたが、私は「何という無茶振り!」と背筋が凍りました。だって、学生は200人いるんですよ!それを思いつきで全部読め!とは…振る方も振る方だし、受ける方も受ける方だわ、と思ったんですが、その後少し納得がいきました。というのは、瀬口先生は「速読法を身に着けている」のだそうです。

400字程度であれば、なめるようにして眺めるくらいで読めるそうなんです!速読法については聞いたことがありましたが、驚愕しました。またこの先生は「速読ができる」だけではありません。最初の学生の前での自己紹介のとき、「自分は作文の能力では中国一だと思っている」とさらっと言っておられました。

実際に自分が直接指導した学生が数人、中国の全国作文大会で優勝しているのです。実はそれについて、瀬口先生が書かれた文章も拝読しましたが、非常に興味深いものでした(出版前ということでここで出せないのが残念です)。もう少し時間があったら作文のコツやノウハウについて聞きたかったものです。

また、作文中国一もさることながら、ダンスも中国一なんではないか、と個人的には思いました。逃げ恥のダンスを舞台上で披露(というか例示)されていましたが、EXILEのメンバーだったと言われてもおかしくないほどのキレでした。

●越秀国際終身教育学院 前川友太先生

で書きました、学生を「無理やり舞台に上げるプロの先生」とはこの人のことです。雰囲気を作るプロと言っていいでしょう。この先生に絡まれたら「舞台に上がるか~」とか「踊るか~」という気になるんですよね~何でしょうこの特殊能力は。

小道具にも力を入れられていて、ちゃんと舞台衣装を用意されています。私は2日しか参加できなかったので2日分しか見られませんでしたが、「タトゥー柄のTシャツ」と「中国の少数民族の民族衣装」みたいな「ツッコミどころ満載」の衣装を着られていました。その他にもベトナムの民族衣装なども用意されている、とのことでした。

私も日本語教師歴は短くありませんが、「衣装を用意する」という発想は全くなかったので、「こういうアプローチもあるのか」と膝を打ちました(そういえば某先生も冒険家ファッションだったりしますね)。

また参加者の中には日本からの留学生が10数名いて、彼らを対象に「中国語の授業」もおこなわれていたのですが、そこで中国人の先生に混じって講師の一角を務めていたのがこの先生です。中国語を教えられるレベルというのもさることながら、他の人の話によると、「さまざまな地方の方言をしゃべることができるのが前川先生のすごいところ」だそうです。

ちなみにこの前川先生とは2日間同じ部屋で寝起きを共にしましたが、寝ている時にちらっと見てみると、マスクをして寝ているんですね。風邪予防だということです。この準備周到さに感動しました。準備不足の私は前川先生のご厚意でマスクをわけていただきました。

その他お世話になった方々

また、その他には湖南文理学院・宮崎圭先生、大連海洋大学・永田知里先生、小山台教育財団・濱場澄恵先生にお世話になりました。これらの教師陣の中では私が最も中国については無知だったので、中国語や中国の社会、教育などさまざまなことがらについて教えてもらうことができました。

特に湖南文理学院・宮崎圭先生は、今回3回目の参加ということでした。笈川先生をはじめ、運営にコアに関わっている先生方は打ち合わせなどで忙しそうにしていたので、こちらから声をかけたりすることがはばかられたりもしたのですが、宮崎先生は私のような素人と、中心にいる先生方の中間に位置するような立場で、合宿授業にまつわるさまざまな内容をおしえていただきました。

笈川夫人・奈弥先生

忘れてはならないのはこの人でしょう。男性教師が多い中で華を添える役割、、、というわけではありません。確かに女性で壇上に上がる人は少ないため結果的に華を添えているわけですが、「ここぞ」という時に出てきて、「なるほど」という指摘をたくさんされていました。

今回の2日間での授業を振り返ってみると、実は「教える」ということはあまりありませんでした。テクニックやノウハウのようなものは盛り沢山でしたが、基本的に教師陣は「練習や実践をコーディネートする」方に重きを置いていたように感じます。そんな中で最も「教師らしい」役割を担っていたのがこの奈弥先生かもしれません。細かい部分は中国語で話されていたのでよくわかりませんでしたが、「中国の人はこうなりやすいから、このようにしたほうが良い」のような指導をなさっていたように感じます。

大枠は個性的な教師陣に任せ、調整が必要なときには前に出てくるという感じでしょうか。ともかく全体をよく観察しているな~という印象を受けました。私は授業を見ながら授業の進行や、笈川先生の動きなどに疑問な点がたくさん出てきたのですが、この奈弥先生にぶつけると「それはですね…」と全てわかりやすく説明してくださいました。

教師のあり方?

以上、2018年夏の北京合宿授業、わずか2日間の間にお世話になった教師陣について見てきました。さまざまな人々がいましたが、総じて言うと「個性的」というキーワードにたどり着くと思います。実際にこの合宿で教師陣に接した人ならわかると思いますが、ともかく個性が強く、ガンガン学生を引っ張っていくんですね。

ある先生にそのことを話すと、「中国ではそれくらい個性が強くないとやっていけない」ということでした。確かにそうかもしれません。わずか3泊4日の中国滞在でしたが、中国は私がいる韓国や日本とはだいぶ違うなという印象を受けました。それは進んでいるとか遅れているとかではありません。感覚として「ここで仕事をしたり、住むのは大変そうだな」というのを感じました。そういう環境で長期に渡って活動を続けていくには「まあテキトーに」ではだめなんでしょう。

しかし面白いのはその強い個性があまりぶつかっていないんですね。相補的というか、いい具合にバランスが取れていたように思えます。個性が強い=我が強いとなりがちがですが、考えてみたら上から目線の人や、横柄な態度の人は一人もいませんでした。皆さん低姿勢で、お互いがお互いを尊重して、よいチームワークを作っているようでした。

また、「教師のあり方」についても考えさせられました。私など近年は「いかにして無色であるべきか」を追い求めて来たような気がします。できるだけ学習者に対して人格的に引っかかる部分を削って、授業はコンテンツで勝負。できるだけ教師は授業の邪魔をせず、学習者の主体的な学習を促進させることに重きをおく。授業が終わってみたら「あれ?先生何やってたの?」くらいの授業が良いのではないか、と考えていました。

もちろん、そのクラスの目的やあり方によってはそういったのもあり得るでしょうが、今回強烈な個性を持った幾人もの教師陣との出会いを通して、教師としてのあり方をもう一度考えていくべきじゃないかと思いました。だって無色の教師じゃ絶対200人の学習者を引っ張っていけませんからね。

このシリーズまだまだ続きます!

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