ちょっと前に私の家族一同が集まったことがありました。
父母は二人ともまだ健在。姉と妹は嫁に行きそれぞれ配偶者と子供がいます。それと私と妻とうちの二人の子供が一堂に会したということです。
うちの子供は、私の姉と妹そしてその配偶者2名をどのように呼ぶか悩んでいるようでした。そこで、
「普通におばさん、おじさんでいいんじゃないの?」
と言ったところ、
「いや、その呼び方はちょっと・・・「まるこちゃん(仮名)」の方がよくない?」
と中学生の長男に言われてしまいました。私としては「おば」と「その配偶者」を呼ぶ呼び方として「おばさん」「おじさん」というのは、どう見たって普通の言い方なんですが、子供にとっては違うようでした。
違和感の理由
中学生の息子はなぜ「おば」の立場にある人を「おばさん」と呼ぶのに違和感があるのか、それをいろいろ考えてみたところ、大きく二つの理由があると思いました。
1)呼び(言い)慣れていない
2)中年の人への一般呼称という印象が強い
まずは1)ですけど、これが最も大きな理由かと思います。うちの子はそもそもそれらの親戚と会うのが久しぶりで、呼び慣れていないのでしょう。しかしそれだけでは特に「おばさん」という言い方を拒絶した理由にはなりません。「おばさん」にせよ「まるこちゃん(仮名)」にせよ、呼び慣れていないのですから。
さきほど「久しぶりに会う」とは言いましたが、家庭内ではそれらの人に対する言及はあります。私が息子たちと話すとき、妹のことを「まるこちゃん」とか、その配偶者のことを「こうへいくん(仮名)」とかで言及するんですよね。そうすると、自然とその呼び方が息子にもうつってしまう。だからこそ、実際に呼ぶ局面になっては「おばさん」より、「まるこちゃん」の方が「言い慣れている」表現になるのでしょう。
ただ、理解できないのは、私の子供時代を思い返しても同じようなことはありました。母は自分の姉妹ではないですが、従姉妹の女性を「はなちゃん(仮名)」と私たちに対して言っていました。しかし、私がその母の従姉妹の人を「はなちゃん」と面と向かって呼ぶことは決してありません。母と私が二人で話しているときに「はなちゃんは最近元気?」などとその人を指し示すことは普通ですけど。
つまり「呼び慣れていない」というのは理由としてはもちろんあるかもしれませんが、それ以上に私と息子の間で呼び方の規範意識が変わっていると思うんですよね。そこで2)中年の人への一般呼称という印象が強いです。
「おばさん」は何を指す?
この問題(おじ、おばを何と呼ぶか)に興味を持っていろいろと検索してみたんですけど、自分の甥や姪に「おばちゃん」とか「おばさん」と呼ばれることに抵抗がある人は結構多いみたいです。
まあ、私の場合を考えてみても、私は29の時に長男が生まれました。その時私の姉は31、妹は26です。子供がしっかりと話せるようになるのは2歳くらいだとしても、妹の場合は20代で「おばさん」になるわけです。20代後半なんて若者ですよね。てか、姉にしても当時は結婚していませんでしたから、「おばさん」と呼ばれるには抵抗があったはずです。
・・・とここまで書いてきましたが、おかしな話ですよね。そこに気づきましたでしょうか。
そもそも「おばさん」というのは親族内での関係を表す呼称の一つです。「親の兄弟姉妹」については「おじ」「おば」なんですよ。その時に「年齢」は関係ないはずです。
他の例で考えてみたらわかります。例えば20代で親になる人もいれば40代で親になる人もいる。で、子供はその母を「お母さん」などと呼ぶわけですが、20代で母になった人が「お母さんって呼ばれるのはちょっと・・・」という発言をすることは想像しにくいですよね(「ママ」と呼ばれたいなどの好みは一旦置いておきます)。でも、「おばさん」の場合は、そう呼ぶべき立場にある人が呼んだとしても「おばさんと呼ばれるのはちょっと・・・」という表現が受け入れられてしまうのです。
つまり、「おばさん」という呼称は、親族呼称としてよりも「広く中年女性を呼んだり指したりする表現」のイメージが先行していると言えるのではないでしょうか。
世界の「おばさん」
私が知っているいくつかの言語でも親族呼称が広く一般に中年女性を指すようになった例はいくつもあります。
例えば韓国語。
飲食店などで店員女性を呼びかける時、「イモ!」という表現を使う人がいます。これはもともと「母の姉妹」を指す親族呼称です。別に親族じゃなくても知らない中年女性を「イモ」と呼ぶことは普通かと思います(ただしそんなに品の良い表現とは言えないかも)。
※ちなみにうちの妻は店員の女性を呼ぶ時には「オンニ」という表現を多用します。これは「女性から見た姉」を指す言葉ですが、年上でも年下でも「オンニ」を連発しますね。私はこのような呼称は全く使わず「チョギヨ(すみません)」ですね。
例えば中国語。
これについてはそんなに自信はないですが、「阿姨」という呼称が使われることがあります。元々はやはり母方の姉妹を指す言葉のようです。ドラマなんかで友達の母を呼ぶ時に「阿姨」というのを聞いたことがありますし、日常生活ではベビーシッターや掃除をしてくれる人なんかを「阿姨」という人をよく聞きます。
二つしか例を上げませんんでしたが、おそらく親族呼称を親族じゃない人に使うことによってその人への親しみを表現する、というのは世界中で行われてることだと思います。
しかしですね、韓国語の例で言うと、「おば」の立場にある人が「甥っ子や姪っ子からイモと呼ばれるのが嫌」というのはあまり聞いたことがありません。一方で、食堂などで働く人が「イモと呼ぶな」というのは聞いたことがあります(これは日本も同じですね。中年女性の店員に「おばさん」などと呼びかけるのはかなり悪いマナーでしょう)。
つまりこの韓国語の「イモ」の場合は「親族呼称としての性格が強い」とも言えるのではないでしょうか。
使われ方の逆転
というわけで、元々は親族呼称だったものが、中年女性を指すという印象が強くなりすぎて、逆にそもそもの親族呼称としての役割を負えなくなってきているという逆転現象が日本語では起こっていると言えるのです。
もちろん「直接の呼びかけ」と「文脈上での言及」は違います。直接「おばさん」とは言えなくても、その人を指し示す時に「私のおばさんが・・・」というような用法は普通ですし、そこは侵されていないでしょう。
ただやはり呼びかけの方だけを見ますと、伝統的な日本の呼称体系が少しずつ変わってきているのかなとも思います。そもそも日本語では、「目上の人は名前で呼べない」というルールがありますよね。おじやおばも「目上」にあたるので、このルールに照らし合わせると「おじさん」「おばさん」とかで呼ばれて然るべきなんですよね(良いとか悪いとかの話ではありません)。
そういえば今回びっくりしたのが、中学生の姪っ子が自分の母(つまり私の妹)のことを「まるちゃん(仮名)」みたいな言い方で呼んでいたんですよね。クレヨンしんちゃんとかでは母のことを「みさえ」と呼んでいますが、現実にもそれに近いことがあるんだな〜と感心したものでした(ちなみに息子の友達の女の子も自分の母親を名前で呼んでいるとか)。
その他
というわけでいろいろ書いてきましたが、特に結論はありません。ちなみに私がX上でとったアンケートがあるのでここでも共有しておきます。
【教えてください】
— さくま しろう(佐久間司郎) (@shirogb250) April 15, 2024
自分の「おじ」、「おば」にあたる人を、主にどのように呼んでいますか?(一人一人違うこともあると思うので、「主に」をつけています)
↑「それ以外」が結構多いですが、ここに投票された方は「一郎おじさん」や「秋田のおじさん」の場合が多いかなと思います。それを「親族呼称」に含めると、「名前」や「あだな」で呼ぶ人は少数派であるということがわかります。
【教えてください】
— さくま しろう(佐久間司郎) (@shirogb250) April 15, 2024
自分の「甥」、「姪」に当たる人にどのように呼ばれたいですか(現実にどのように呼ばれているかはさておき)。
↑これはどう呼ばれたいかっていうものですが、名前やあだ名で呼ばれたいという回答が多いですね。これは意外でした。それとともに「なんでも構わない」も多いですね。私もそれかな。
これらは(選択肢の選定もへっぽこな)小規模の調査とも言えない調査ですが、「自分は親族呼称で呼んでいるが、呼ばれるときは名前がいいな」という傾向が見てとれるとも言えます。
呼称の問題はおもしろいですね!