レビュー『段落論』

投稿者: | 2020年12月28日

石黒圭(2020)『段落論~日本語の「わかりやすさ」の決め手~」光文社新書

石黒先生の本は過去に何冊か読んでいますが、そのたびに色々な気づきや発見、学びがあります。以前ブログ記事にしたのは、#日本語教師ブッククラブ で読んだ↓の本ですね。

レビュー『日本語は「空気」が決める〜社会言語学入門』

この↑の本に比べれば今回ご紹介する本は、多少ガッツリしている感はありますが、それだけに非常に学びの多い本でした。

正直に言いますと、タイトルを見ただけで購入したのでどのような話が展開されるのか全く予想していませんでした。この本を読んでわかりましたが、そもそも私は段落というものを全く理解していませんでしたしね。

本書にどのようなこと書かれているかをダイジェストで示すことは、この記事の目指すところではありません。私が「むむ」っとうなったところを中心に脈絡なくこの本について書いていきます(「段落論」を読んだ人のやることではありませんが(笑))。

段落とは?

まずこのような記述があります。

文章を書くことは、書き手の頭の中にある情報を、文章をつうじて読み手の頭の中に移動させる、いわば情報の引っ越しです。

モノを一つ一つ運んでいたら引っ越しは終わりません。引っ越しをするとなったら、荷物をダンボール箱に詰めますよね。その箱の中には同じ場所で使うものや、機能的に似ているものなどを一つの同じ箱に詰めます。誰も、台所で使うしゃもじと、浴室で使うシャンプーを同じ箱には詰めません。もちろん詰めることは可能ですが、引っ越しという作業自体の効率は著しく落ちます。

そして効率的に箱に物を入れたとしても、何も考えずにそれらの箱をトラックに積むわけにはいきません。箱をどのように積むかということも考えなければなりません。

つまり引っ越しする際に大事なことは、効率的に荷物を箱に詰めることと、その箱をうまくトラック内に詰み込むことです。これが出来れば積み下ろしも効率的にできますし、新居の方の整理効率も上がります。

荷物の一つ一つが「文」で、その「文」を詰める箱が「段落」です。どのような文を集めて段落を作るか、そして作られた段落をどのように配置するか、それを考えるのが本書です。

非常にわかりやすい例えですよね。闇雲に思いついたことをそのまま文にして段落にしていては、自分の考えを効率的に相手に伝えることはできないということです(まさに私のブログがその典型です(笑))。

「流れ」と「構え」

金言のたくさんある本なのですが私がグッときたのは、段落は「流れと構えを調整する」機能があるということです。文章における文の「流れと構え」というのは以下のような意味で本書で使われています。

流れ…先行文脈から自然につながろうとする力
構え…新情報の導入によって意図的に離れようとする力

「流れ」と「構え」はつねに拮抗する存在です。「流れ」が無目的に走りだそうとすると、「構え」がそれにストップをかけます。そのまま書きつづけてしまうと、あらぬ方向に文章が展開していってしまうからです。一方、「構え」が「流れ」を無理に押さえつけようとすると、「流れ」がそれに反発します。(Kindleの位置No.955-959)

つまり文章は「流れ」と「構え」が適切に釣り合いを取っていないといけないということですね。そしてそのつり合いを適切に取るための調整場として段落があるということになります。

段落は「流れ」と「構え」が出会い、調整をする場だということになるでしょう。ボトムアップ式の活動とトップダウン式の作業がクロスする交差点なのです。

簡単に言うと「流れは勢い」、そして「構えは構成」ですね。これはどのような読者を想定しているか、どのような種類の文章なのかによってどちらを優先させるかは変わると思います。しかしどのような文章を書くときも、話すときも二つの視点への配慮は必要になると思います。

ちなみに、この部分で非常に格好良いワーディングがありましたのでご紹介しておきます。

文章とは、「構え」と「流れ」の絶え間ない戦いの過程であり、両者の調整の歴史です。(Kindleの位置No.959)

この文とってもいいですよね。

上手なプレゼンテーションの方法

ここまではちょっと抽象的な部分をご紹介しましたが、当然具体的なインストラクションもあります。その一つ「プレゼンテーションの方法」についての言及がありますので、ここでご紹介します。

PowerPoint のようなスライドを使ったプレゼンテーションが昨今一般的だと思いますが、本書ではこのスライドを使ったプレゼンテーションの弱点を一言で表しています。それは、

話の「流れ」を示すのには適しているのですが、話の「構え」を示すのには適していないのです。(Kindleの位置No.2353-2354)

ということです。投影されるのが今話をしている一枚のスライドに限られるため、前後の文脈がよくわからない、大きな構成もよくわからないということですね。例えば縮尺の大きすぎる地図のようなものですね。その周りのことはよくわかるが、全体としてそれがどこに位置するのかはわからないという。

ですからスライドを使った発表をわかりやすくするためには、構えを示す仕掛けをしっかりと作っておくことだと言います。例えば、

・スライドの上部にあるタイトルを工夫すること
・これから話す内容の見取り図を事前に示す見出しスライドを作ること

などがあげられていますが、私が「むむむ」と思ったのは、

・直前のスライドと直後のスライドを意識するしかけを作ること

というアドバイスです。

スライドの最上部の小主題文は直前のスライドを受け継ぐような内容を盛りこみ、スライドの最下部の小結論文はそのスライドの内容を単にまとめるだけでなく、次に来るスライドの内容を予告し、聞いている人に次のスライドの内容を期待させるしかけを作ることが重要です。

つまり独立しているそれぞれのスライドを独立させないようにするということですね。これはもうちょっと突っ込んで言うと、

ストーリーを作る

ということではないでしょうか。実践報告にしても、硬質なイメージのある会計報告にしても、ただ事実を事実として報告するだけでは聞いている方がよく理解のできないことがあります。その時に一つのストーリーを軸に話を展開させることによって、一つ一つのスライドが全体を構成する一部分として認識されるようになると思います。

あ、別にストーリーと言っても物語というわけではありません。一本の線を通しておくということですね。

まとめ

というわけで、石黒圭(2020)『段落論~日本語の「わかりやすさ」の決め手~」光文社新書の紹介を簡単にさせていただきました。おそらくこれを読んでもよく分からないと思いますが、その一部分にでも興味を持った方は実際に本書を手にとって読んでいただけると良いかと思います。

「書く人のため」という側面もありますが、ハウツー本とは違いもっと大きな話をしています。文章の構成、文の書き方理解の仕方を考える上で、実践的でもあり示唆にも富んだ本です。

伝統的な文章についての言及だけではなく、例えば Twitterにおける文の考察、段落の考察などについての言及もあります。また口頭コミュニケーションにおける段落の考察などもありますブログ記事の文章の考察などもありまして全くその通りだなぁと膝を打ちました。とにかく読み物としても非常に面白いです。

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