これは知らないといけない『認知心理学者が教える 最適の勉強法』

投稿者: | 2023年1月30日

ヤナ・ワインスタイン(他)(2022)『認知心理学者が教える最適の学習法: ビジュアルガイドブック』東京出版

実はそんなに期待していなかったんですよね。「ビジュアルガイドブック」とあるし、もう少し軽めのものを想像していました。いや、別に重いわけではありませんし、書き方もとてもカジュアルです。しかし、なかなか内容はディープな部分もありましたので、ぜひ、この場を借りてみなさんに内容の一部をご紹介したいと思います。

エビデンスに基づいた教育

読みながらまず最初に「おおっ」と思ったのは以下の箇所です。

ラーニングスタイルについて科学的な文献を徹底的に調査した結果、それを支持する証拠は何ひとつないことが判明しました。(p17)

ここでまず引っかかりました。というのは、私は各人のラーニングスタイル(学習の個人的嗜好)に配慮して学習を進めてもらうのが良い方法だと考えていたからです。いや、私だけではありません。この本の中でも、大いなる誤解として、多くの教師が「好きなラーニングスタイルで情報を受け取ると、よりよく学べる」ということについて、「そう思う」と答えているのです。

しかし本書では大いなる誤解であると言っています。また、それ以外にも、

・刺激が多い環境は未就学児の脳を発達させる
・運動スキルの練習は読み書き能力を向上させる
・甘い食べ物や飲み物を摂取すると、注意力が低下する
(p64)

などが、大いなる誤解を多くの人が信じている例として挙げられています。

つまりこの本の趣旨は、

あんたたち教員は経験に基づいて教育をやりすぎ。いろいろ有益な研究があるんだから、それ(エビデンス)に基づいてより効果的な教育をしないといけません。それが教師の役目ですよ。

といったものです。

ちょっと痛いところを突かれた気分・・・そう、私も含めて多くの教師は「なんとなく」で授業を組み立てている部分が多いのは確かですよね。よく日本語教育の世界でも、

なぜその練習が必要なのかを考えなさい

みたいなことが言われたりします(テキトーな「私のあとについて読んでください」とか、入れ替え練習とか)。

また私たち日本語教師が拠り所とすべき理論の一つとしては第二言語習得理論(SLA)みたいな洒落たやつもあります。2020年だったかに発売された小柳かおる氏の『第二言語習得について日本語教師が知っておくべきこと』なんかは少なくない衝撃を与えましたよね。「ドリルとか意味ないっす」「文法説明とかしなくていい」みたいな?

「SLA(理論)にあった日本語授業を考える」教師研修会をやりました(スライド有)

だからとりあえず耳は痛いけど、この本も最後まで読まないといけないな〜と思った次第です。

6つの学習方法

そして本書で具体的に紹介されているのが以下の6つの学習方法です。

・分散学習
・検索練習
・インターリーブ(交互配置)
・精緻化
・具体化
・二重符号化(デュアルコーディング)

これらについて、

6つの学習方法は教えられていないので、多くの学生たちは効果的な学習方法を習得することができていません。(p145、146)

と述べられています。そう言われれば、「勉強の仕方」って習ったことないような気がしますね。私は小中高と全部公立の日本の学校に通っていましたけど、結局「勉強の仕方」は個人に委ねられていたような気がします。

まあとにかく、少なくとも効果的な方法がわかっているのであれば、教師としては積極的にそれを教えてあげ、かつ授業にもその内容を組み込まない手はありません。

上の6つの詳細につきましては本書を読んでいただくとして、そのうち簡単に我々の業界でも手を出せそうなもの、わかりやすい2つ(分散学習・検索練習)についてのみここでご紹介していこうかと思います。

分散学習

授業が終わる時に、「ええと、じゃあ今日の宿題はこれです。今日習ったことを復習する内容になっていますので、ちゃんと家でやってきてください。」

というのはよくありがちな光景かと思うんですが、これよりももっといい方法がありまっせ、というのが分散学習です。

まあはやい話が、同じ時間勉強するんだったら、その間隔を詰めて一気にやるより、ある程度間隔を開けた方が長期的な記憶として定着しますよということです。

仮に60分家庭学習するなら、その項目をならった1週間後に20分、2週間後に20分、3週間後に20分やる方が、がーっとその翌日に60分復習するより効果は高いということです。まあこれは聞いたことありますよね。取り入れるの簡単じゃないですか?

たとえば週に一度自分が担当するクラスがあるとした場合、
・宿題に課すのは一週前のクラスで習った内容にする
・教科書の各科の最後にある作文だけはいつも2週遅れでやる
・定期テストのうちの3割は、前回のテスト問題と類似したものを出す

みたいなルーティンを決めてしまえばいいわけですから。

そう言った意味で、たとえば行動中心アプローチなんかでとられる「スパイラルな感じ」ってその理にかなっているんですよね。文法積み上げだと「はい、て形はこの課で全部覚えましたね。次の課は「〜てください」「〜てから」を習います」みたいになっている場合が多いですよね。その点でタスクベースとかだと忘れた頃にまた「て形」を使うような場面が出てきたりします。

うちの中学生の息子の勉強をみていましてもですね、やっぱ分散学習からは外れているんですよ。まずとりあえず「比例と反比例」の問題集をとことんやって一応マスターしていくんですが、その後に「一次関数」とか出てきて、それに付き合っているうちに「比例ってなんだっけ?」となってしまうんですよね。

それを防ぐためにも、たとえば問題集も前から順番にやっていくんじゃなくて、奇数ページごとに進め、あとで偶数ページをやっつけるとか、そういうシステムが必要になるかなと思います。

検索練習

もう一つわかりやすいのはこの検索練習ですね。これはGoogleを使った検索の仕方を練習しよう!!というものではありませんよ(笑)

多分これはいわゆるRetrieval practice(リトリーバルプラクティス)のことなんですよね。実は私もこのブログで何度か言及してきましたが、実はよく意味がわかっていませんでした(すんません)。

Retrieval Practiceって何?

しかし本書を読んでよくわかりました。検索練習とは、Googleを使うことではなくて(笑)、

思い出すこと

なんですね。そう、学習項目を折りに触れて思い出すことなんです。って考えたら私やってますよ、今。

今私は中国語の学習を「Hello Chinese」というアプリを使ってやっています。このアプリ自分のペースでどんどん学習を進めることができるんですが、どんなに下にスワイプしても必ずこの葉っぱマークがついてくるんです。

これ、何かというと、復習なんです。ランダムかなんらかの規則にのっとって、毎日毎日更新されます。別にやらなくても前に進めるんですが、私は毎日新学習項目をこなしたら必ずこおん葉っぱマークをタップして過去に習った単語や文を復習しています。終わったら「今日の復習は全て終わりました」とまで出ます。

これ、非常にありがたいんですよね。これがなかったら、自分で選んで復習しないといけません。しかもランダムにはなりませんから、何を復習するかについても頭を使わないといけません。

いわゆる忘却曲線とかそういうやつですね。ちなみにこのアプリは非常によくできています。この復習もそうですが、第二言語習得の理論にある程度精通している人が作っているのではないかと考えられます(もちろん私は課金して使っています)。

ですから教師としては検索練習→つまり思い出し練習を積極的にカリキュラムに取り入れるといいよということですね。

簡単にいえば小テストとかそういったものでしょう。本書で言われているのは、必ずしも「テスト」という体裁をとってなくてもいいということです。そう、

思い出す

ということができればいいわけですから。

そのために私が言っているのは、問題や質問を出してランダムに学習者を当てるというやり方です(普通すぎてすまない)。

たとえば、「1+1は?」と聞いて、誰に当てるかわからない状態ならクラスの学習者はみんなそれについて考えますよね。その後一人誰かを指名して答えさせるとしても。

それがたとえば「はい、Aさん、1+1は?」とか机の並び順で学習者を指名すると、指名されない学習者はもしかしたら検索→思い出すことをしなくなるかもしれません。ですから、どうやったら効率的に思い出すタスクを導入できるかを考えてやっていきたいところです。

・・・って自分で書いてて前の項に書いた「分散学習」と「検索学習」は被るところがあるな、と思いました。

まとめ

今日は「最適な勉強法」から2つだけわかりやすいところをご紹介させていただきました。こういうのって、多分皆さんも聞いたことあると思うんですけど、こうやって積極的に

分散学習・検索練習

などと見出しを立てて考えることで、より明示的に日々の授業に取り入れていくことができますよね。だからこそ、たまに断片的な情報や知識を整理するこういう本を読み下していく作業が必要になるわけです。

さて、最初に私は「ラーニングスタイル」への配慮はあんまり意味ない、という本書の内容をご紹介しましたが、これは例えば、「自分の好きなコンテンツの学習をおこなう」というような「スタイル」を否定するものではありません。

でも、学習は分散させるとか、折りに触れて思い出す仕掛けを作るとか、そういうのはそれなりに認められていることではあるので、少なくとも授業ではそういうやり方にのっとってやっていくのが良いのかなと思います。

あとこれは第二言語習得理論でもそうですけど、教師だけでなく学習者の方のビリーフというのも結構強固だったりして、なかなか自分の学習方法を変えない人もいます。でも、今の「常識」を知った上でその学習方法をとっているのか、はたまた知らないで惰性でやっているのかによってその意味合いは全く決まっています。やはり教師としては、明示的に「こういうやり方でやるのが良いと言われている」というのは示す必要があるかな、と思います。

もっと詳しく知りたいと思った方はぜひ、本書を読んでみてください!!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です