Nation氏が提唱する「言語学習に必要な4つの要素」とセミナー

投稿者: | 2021年8月5日

Youtubeでワークショップ動画を視聴しました。

「言語学習に必要な4つの要素」 横山紀子先生(93分)

Twitterで流れてきて視聴したんですが、とても勉強になりました。

ワークショップの内容をかいつまんで言いますと、

①Nationが提唱する「言語学習に必要な4つの要素」の説明
②その4つの要素それぞれのに対応する具体的な教室活動の紹介
➂グループになって「4つの要素」を踏まえた上での教室活動の作成

という流れです。まあ詳しいことは↑のビデオを見てもらった方がよくわかると思います。気になる人はぜひ見てみてください。

Nationの「4つの要素」

恥ずかしながら私はNationという人について良く知りませんでした。で、せっかくこのワークショップで知ることができたのだから、ちょっと勉強してみようかと思って論文や本を探してみました。

まあいろいろ出てきたんですが、とりあえず私が知りたいことはその「4つの要素」だったので↓のPDFをダウンロードして読んでみました。英文なのでかったるいですが、まあこのくらいなら読めるでしょうと思い。

The Four Strands

Nation氏の主張を簡単に言いますと、

外国語教育には以下の4つの要素を入れる必要があるというんですね。

・意味に焦点を当てたインプット練習(meaning-focued input)
・意味に焦点を当てたアウトプット練習 (meaning-focued output)
・言語形式に焦点を当てた練習(language-focued learning)
・流暢さを養成する練習(fluency development)

で、教室内外の学習でその4要素を均等に盛り込んでいくべし。

というんですね。この「均等」というのがみそみたいで、論文の中でも氏はなんども「偏ってはだめなんだ」ということを主張しています。つまり100分の授業があればそれぞれの活動を25分ずつ入れていく、というイメージですね。

以下、その4つの要素を少し詳しくみていきましょう。

意味に焦点を当てたインプット練習(meaning-focued input)

まず用語の整理として、インプットとは「読む、聞く」です。そしてアウトプットは「書く、話す」ですね。

Nation氏は「意味に焦点を当てたインプット練習」として、多読、シェアド・リーディング(読み聞かせっぽい?)、物語を聞く、テレビや映画の視聴、会話を聞くこと、などを上げています。まあ別に特別なものではないですよね。

ただ、やっぱりただ聞いたり読んだりするわけではなくて、「意味に焦点」を当てているので以下のような条件を満たさないといけないと言います。

・学習者にとって、そのインプット対象がなじみ深く、興味深いものであること。
・学習者が全体の語彙の95%~98%をすでに知っていること。
・大量のインプットがあること

まさしく多読、多聴ですよね。

そんなのやっているよ!と言いそうになりますが、実は進度を先に進めることが求められる現実のコースではなかなか実践できていない項目ではないでしょうか。新出の学習事項があるものを読んだり、聞いたりしがちですよね。

ただ、同じものを何度も聞くのは学習者も飽きます。飽きたら、その時点でそのインプット対象は「興味深いもの」でなくなるわけですから、やはり難易度は低くてもインプットのバリエーションをたくさん用意する必要がありますね。

今はすぐに音声ファイルを作ったりできますし、文章だって簡単に持ってきたり作ったりできるわけですから、学習者が飽きない工夫を凝らしつつ易しいインプットを増やす必要があるなと思いました。

意味に焦点を当てたアウトプット練習 (meaning-focued output)

これも考え方としてはインプットと同じだとNation氏は言っています。つまり、

・書いたり話したりする対象がなじみ深いものであること
・学習者の目標は意味を他者に伝達すること
・使うべき単語などのほとんどが既習であること
・辞書などの補助的道具を使っても良い
・大量のアウトプット機会があること

ですから、言いたいことのほとんどを翻訳機に頼るようなレベルのアウトプットではだめということですよね。

インプットと対称的な位置にあると考えられるアウトプットですけど、「アウトプットが学習者にもたらすものはインプットがもたらすものとはちょっと違いまっせ」とも述べています。つまり似てるけど、構造が全く違うということでしょうかね。それでSwain氏の3つの提案を援用しています。

アウトプットの3つの機能とは、「気づき機能」「仮説検証機能」「メタ言語(内省)機能」です。

産出活動をおこなおうとすることによって、「これは何といえばいいんだっけ?」という気づきがあったり、「この単語はこう発音したら通じるのか」などという仮説を検証できるということですね。

私もクメール語勉強していて、相手の言っていることはわかるんですけど、それを自分の口から言おうとすると言えなかったりしますし、文字に関して言えばもっと顕著で、読めても書けません。でも話そう、書こうとすることで、その言えなかった、書けなかった部分の言語知識が強化されていくのは感じることができます。

言語形式に焦点を当てた練習(language-focued learning)

ここまで上げた2つは「意味の伝達」に焦点を当てていました。この「言語形式に焦点」というのは簡単に言うと「正しい文法」「正しい発音」などを追及するということでしょうね。

おそらくこれが現在の言語教育でもっとも時間が割かれている分野の一つでしょう。

この分野の練習をおこなうときの条件については以下のように書かれています。

・学習者は言語形式の特徴をしっかりと意識する
・同じ言語形式の特徴に繰り返して注意を払う機会を作る
・ここでの練習はここまで上げた意味に焦点を当てた練習とかぶる部分もある

なんかよくわかんないですけど、このような学習は以下のような影響を与えるとも言っています。

・直接的に明示的な知識を積み上げる
・のちの学習をアシストする意識を高める
・言語のシステム上の側面に焦点を当てる
・ストラテジーを発達させるのに使われる

なんかこれもよくわかんないですね(笑)

まあ要はですね、例えば

「発音練習」「穴埋め問題」「ドリル」「フラッシュカード」「翻訳」「会話文の暗記」「ディクテーション」

のような活動をするということです。これらの活動はこれまで見てきた「意味に焦点を当てる」活動とははっきりと違いますよね。そしてまあ我々が昔からやっている伝統的な活動とも言えます。

ということはですよ、おそらく今まで私たちがやっていた活動のほとんどはこの「言語形式に焦点を当てた」活動なのだと言えます。

会話文を読んで、文法の練習をして、単語を入れ替えて文を作って、ペアになって会話文を暗記して、それを発表し、最後は自分なりに単語を入れ替えて発表する、みたいな。

つまり伝統的な外国語学習における練習なわけですが、Nationさんはこれも必要だと言っていますね。

ただし、もちろんこれが占める割合は全体の25%ということで。

流暢さを養成する練習(fluency development)

最後の項目になりました。冒頭に上げたワークショップの中でも先生は「これに注目している」的なことをおっしゃっていましたが、私もここには「むむっ」と感じました。だって流暢さを鍛える練習ってあんまりしないじゃないですか?えええ?やってる?

まあ、みなさんがやっているかどうかは別として、流暢さを養成する練習が必要だとNationさんは述べています。で、あと「流暢さ」というと「ペラペラ」話すようなことを想定しがちですが、ここでの「流暢さ」は4技能全てに該当するみたいです。つまり「ペラペラ話す」はもちろんのこと、「スラスラ読む、書く」「一発でちゃんと聞き取る」ってことですかね。

流暢さを養成する練習が成立する条件としては、

・その(読む・書く・話す・聞く)対象が学習者にとってなじみ深いものであること
・活動の焦点は「意味の伝達・受け取り」であること
・言語処理のスピードに対するプレッシャーがあること
・大量のインプット・アウトプットがあること

を上げています。最初に上げた「意味に焦点を上げた活動」に似ていますが、ここでのポイントは三点目の

スピードに対するプレッシャーがあること

でしょうね。Nation氏はその代表的な活動として、「4/3/2」というものを上げています

まあ簡単に言うと、同じ話を最初は4分、次に3分、最後は2分で話してもらう、というものです。最初はAさんと
Bさんでペアを作り、時間になったらペアをかえて、また時間になったらペアを変える。

同じ話をするのですから、当然回数をこなせばこなすほど、それを実行するスピードは上がっていきます。つまり、流暢さが養われるというということですね(この活動については冒頭に上げたセミナーでも詳しくご紹介されています)。

知ったかぶりで話していますが、私もこの「4/3/2」という言葉はセミナー動画で初めて知りました。ただ、類似の活動はすでに実践している人は多いと思います。

例えば、2018年に参加した当時中国にいらっしゃった笈川先生の合宿授業でも、時間を測りながらどんどんペアを変えて話をするという活動をやっていましたし、昨日受けた韓国のまるごとセミナーでも「ロールプレイ部分ではペアを変えて5回同じことをやらせる」という話を聞きました。私の所属機関でやったオンライン授業でも割りとそれに近いことをやってました(これらについては↓をご覧ください)。

半端ない!笈川式日本語合宿授業潜入記①
アウトプットを中心に据えた授業(1/2) 前提編

なるほど、こういうのは流暢さを鍛える練習だったのかと今になって腑に落ちました(理解が遅くてすまない)。

4つの要素の均等配分

というわけで、ここまでNation氏が提唱する「4つの要素」についてちょっとだけ詳しく見てきました。で、氏が強調しているのは、

この4つを学習に均等に配分すること

なんですね。100分授業があれば25分ずつその活動をすると。もちろんこれは一つの授業で全部の要素を入れなさいというわけではありません。結果的に4つの要素が均等に入っていればいいのであって、例えばそのうちの一つの要素を宿題などにしてもかまわないわけです。

よくある反論?としては、学習段階によってその4つの比率を変えたらどうか?という考えです。例えば「流暢さを養成する活動はある程度学習が進んでからでもいいのでは?」といったものですが、氏はこれも

ダメ!絶対!

と言っています(そんな言い方はしてないけど)。とにかく4つの要素を均等に入れていくことが大事なのだそうです。

応用

Nation氏の「4つの要素を均等配分せよ!」が正しいのかどうかはわかりません。でも直感としては、悪くない考え方だと思います(上から目線ですまない)。私が「悪くない」と思うのは、この理論に沿って考えれば、

教室活動を考えやすくなるから

です。いや、これは私がそう思うっていうか、セミナー動画でも触れられていることです。授業どうやって進めようかな~と思った時、どういう、活動を入れようかな~と考えた時にこの4つの活動がちゃんと入っているかな?どの部分がおろそかになっているかな?というのが考えやすいんですよね。

結果的にきっかり均等に4要素を入れられないとしても、考える軸にはなりますよね。

…とまあ、この辺の考えについてはセミナー動画でとってもわかりやすく説明されていますので、そちらをご覧になった方が良いかと思います。

また、あれですよね、私たちは「4技能」という言葉をよく使いますよね。でも切り口を変えたら氏の提案する「4つの要素」という切り取り方もあるんですよね。例えば授業カテゴリーとして「インプット初級」とか「アウトプット中級」「流暢さ養成上級」みたいな観点から枠組みを考えることもできますね。

そうしたら4技能×4要素=16カテゴリーができるわけですけど、その中で学習者の学習目的を考えて必要な授業は何か、と考えていくのもおもしろいかもしれません。

とにかく私が感心した部分は考える際の取り掛かりとして非常にわかりやすいという点でした。

まとめ

というわけで、つらつらとセミナーと論文の内容について書いてみました。

まあ、ここで書いた内容のほとんどはセミナー動画で得ることができることですので、そちらをご覧になった方が早いかもしれません。セミナー動画は講義部分しか公開されていませんが、理論と実践の部分の比率が絶妙でとても勉強になりました。

この記事は、半分は自分への備忘録意味合いが強いものです。

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