レビュー『入門・やさしい日本語 外国人と日本語で話そう』

投稿者: | 2020年8月6日

#日本語教師ブッククラブ、2020年8月の課題図書です。

吉開章(2020)『入門・やさしい日本語 外国人と日本語で話そう』アスク出版

著者の吉開さんにつきましてはFacebookの「日本語コミュニティ」というグループを通じて知りました。「日本語コミュニティ」は世界最大の日本語学習支援グループで、その管理人を吉開さんがつとめています。私がはじめて日本語コミュニティを見つけたその日、「吉開章」というキーワードを検索しまくったことを覚えています。というのも、コミュニティは当時でも万単位の参加者を集めていましたが、「吉開章」という人の名前は聞いたことがなかったからです(あとになってわかりましたが、それも当然です。電通所属なのですから)。

そのコミュニティの加入手続きをしているときに、あまりにもシステムがしっかりしすぎているので逆に「ここは大丈夫なんだろうか」と思ったりしたのですが、冒険家のあの先生も入っていらっしゃいましたので、「とって食われることもなかろう」と思い加入した記憶があります。その後は「とって食われる」どころか、いろいろとコミュニティで学ばせていただいています。

まあ、そんなこんなで、私は著者の吉開氏が「やさしい日本語」に意欲的に取り組み、こうやって書籍を出版するまでの過程を、ごくごく一部ではありますが横目で見てきました。

そしてこの本を今月手にとりました。「日本語コミュニティ」と同様にシステマチックで、かつ有用&ちょっとほっこりな書籍となっています。今日はその一部を皆さまと共有していきたいと思います。


入門&実用の書

他にもやさしい日本語について書かれた本が何冊が出ていると思うんですが、私はそれらを読んだことがありません。だから他の本と比較してどうのと言えないのですけれど、とにかくこれさえ読めば「やさしい日本語がよくわかる」というのは間違いありません

やさしい日本語とは何か?なぜ必要か?どうすればいいのか?この概念は他に何に役立つのか?どんな社会が実現できるのか?

もしこれから「やさしい日本語について2時間話してください」と言われたら、この内容をまとめれば楽だろうな~と思いました。1時間は講義で1時間はグループワーク。あとは自分の個人的なエピソードを交えるだけですみそう(笑)

つまり、入門書であり、実用書であるということですね。

有用な情報

私も日本語教育に携わっていますから「やさしい日本語」のあらましについては理解しているつもりでしたが、やっぱ本を読むと知らないことがたくさん出てきますね。特に紹介されている数々のウェブサービスやアプリ。

やさにちチェッカー

入力した文章のやさしい日本語度合いを判断してくれるもの。私も以前フリーペーパーに寄稿した文章を判定していましたがB判定をもらいました。カンボジア人の読者も想定していましたのでB判定がもらえたのはうれしいです。

伝えるウェブ

やさしい日本語への自動翻訳をおこなうサービスです。私も以前ブログに書いた「日本語コミュニティ」についての記事の一部を翻訳してみました。

こういうのは便利ですね。こんどやさ日で文を書く時は積極的に使ってみたいと思います。

VoiceTra

これはスマホアプリです。同時機械翻訳はGoogleTranslateでも可能ですが、このアプリの良い点は、同時通訳をすると同時に逆翻訳(つまり機械翻訳で出てきた外国語をもう一度日本語にしてくれる)もしてくれるんですね。これは素晴らしい!

↑1番上が私が話したこと。2番目が機械翻訳の結果、3番めがその翻訳の逆翻訳ですね。

ここまで紹介した3つのツールは、本の中で書かれているものの中のごく一部に過ぎません。全部紹介するのもはばかられるのでこのくらいにしておきました。

理論と実践

私たち日本語教師にとってはやさしい日本語を話すことはそんな難しいことではないのですが、それを他人に伝えるというのはなかなか難しいものです。でもこの本の中ではその要諦を順序立ててちゃんと説明してくれています。一部引用します(p57、59)。

ね?わかりやすいでしょう?

そして、それを噛み砕いて「ハサミの法則」「握り寿司を一貫ずつ」「ワセダ式」とかキャッチーなもの言いでわかりやすく実践の仕方を説明しくれています。

わかりやすかったので思わずツイートしてしまいました。「ワセダ式」が気になる人は本を読んでみてください。

で、基礎概念をみっちり学んだ後には練習問題がたくさん出てきます(p117)。

もちろんやらせっぱなじゃなくて、ていねいな解説もあります。こういうのがあるので、「2時間くらいは話せそう」なのですね。

外国語学習への応用

あとおもしろいのは「やさにち」を磨くことは英語をはじめとした外国語の上達にもつながる、という話でしょうか。第8章に出てくるんですが、その章の小見出しだけ見てもなかなかおもしろそうじゃないですか?

・英会話ができないのは、構造と接続詞が問題
・言いたいことを「整える」ことが先決
・中1レベルの内容で、できるだけ多くの言語を学ぼう
・普通の日本語も、英会話も、「一文二義」で話そう

私もクメール語を勉強する身として、読みながら納得しました。

まとめ

以上、非常に簡単ではありますが、今後「やさしい日本語」の入門書として定番になるであろう『入門・やさしい日本語 外国人と日本語で話そう』について見てきました。

最初の方(26ページ)で、漢字にルビを振ったり、やさしい日本語を使うという配慮について、

「階段に手すりをつけることと同じ」

と言っています。非常にいい表現だと思いました。やさしい日本語は配慮であり、今後の国際社会を日本が生き抜いていくための「社会的手すり」なんですよね。そしてそれは一見弱者に対する配慮かと思われるかもしれませんが、結果的に全部自分に返ってくる類のものです。

やさしい日本語をよく理解し、そしてやさしい社会が実現できていければ良いな~とこの本を読んでほっこりしました。

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