日本語スピーチコンテストの審査方法について考える3

投稿者: | 2020年11月12日

これまでの記事↑では、よくある2つの採点方式について考えてきました。みなさまから寄せられた情報によりますと、「減点方式」というのもあるそうです(まあ、加点だろうが減点だろうが、総合点を出して合計するという点では「得点合計方式」の一つと言ってもよいでしょう)。

さて、今回は最初の記事で少し触れた本↓の内容を抜粋しながら、採点方式についてもう一歩踏み込んで考えてみます。

「きめ方」の論理

佐伯胖(2018)『「きめ方」の論理 ──社会的決定理論への招待(Kindle版) 』筑摩書房

社会的決定理論の入門書だそうです。何かを決める際に、どのように決めるのがフェアなのか、全員の納得を得られるのか、多くの人が幸せになれるのかというようなことが書かれています。

正直私はこのような分野があることすら考えたこともなかったんですが、読めば読むほどおもしろく、有益な内容がてんこ盛りでした。最初は自分には関係ない、ただの思考の練習だと思って読み進めていたのですが、ふとあることが脳裏をかすめました。それが「スピーチ大会の採点方式に応用可能なのではないか」ということです。

前から採点方式には頭を悩ませていましたが、私一人の頭で考えるにはあまりにも大きな問題でした。いつも大体同じところで壁にぶち当たり、堂々巡りを繰り返していたんですね。それもそのはず。それだけ奥の深い分野なのですから。

今でもそれは終わっていませんが、どういう方式にどういう特徴があるのかはこの本を読んで、自分なりに把握できたと思っています。

投票による決定

スピーチ大会の文脈は無視して、何かを決める時に多用される「投票」のいろいろについて、本書の1章に書かれていることをまとめます。ここで言及されている方式は以下の4つです(多少私の解釈も含まれています)。

①多数決方式
②順位評点方式
③単記投票方式
④認定投票方式

①多数決方式

すべての選択肢間で一騎打ちをやらせ、最後に勝ち残った者を選出する方法

A>B、C>D、そしてA>Cなら A>B,C,D となり、Aが最も強い、ということでしょうかね。投票とは違いますがスポーツのトーナメントに近いものでしょうかね。あと、昔のものまね王座決定戦なんかはこのやり方だったんじゃないでしょうか。

相互に対立的になっている状況を想定し、その中での最強を決める方式です。

いくつかの派閥が対立抗争している中での選挙、市場で他商品と比較されることを想定しての製品計画など、「他を制する力」が求められているときは、多数決による勝者が最も適している。(Kindleの位置No.827-829)

②順位評点方式

これは私がこの前の記事で「順位得点付与方式」と名付けたものとほぼ同じです。

必ずしも他とのすべての一騎打ちで勝利している必要はなく、「八方美人」的でマイナスが少なく、無難で敵が少ないものを選ぶことになります。

本書では、以下の場合に有効であるとしています。

比較的同質の人々の間での選挙、「他者への制圧力」よりは「全体的によいイメージを与える」ものを選出したい場合、これといって難点のない「根強い人気」を得るものを選出したいとき(Kindleの位置No.833-835)

③単記投票方式

小選挙区の選挙とか、学級委員選挙みたいなものでしょうか。投票者は選択肢の中で最も適当であると考える者を一つ決めます。単記ですので、選択肢のその他の候補との序列は関係ありません。

この投票が適しているのは、会議における議長の選出、特別の使命で派遣される特使の選出のように、きわめて個別的な意味における「適任者」をきめるような場合であろう。「すぐれた文学作品に与えられる」というような文学賞の選考には向いていないが、「この賞の主旨にふさわしい独自の個性を有する作品に与えられる」賞の選考には向いているだろう。いずれにせよ、単記投票の結果にもとづいて選択肢を「順序づける」ことは全くのナンセンスであることを十分銘記しておかねばならない。(Kindleの位置No.841-845)

なるほど、この方式をとった場合、2番目の得票者が第二位に輝くというのはおかしいということですね。

④認定投票方式

これは、選択肢の中からある要件を満たすと思われるものをすべて選ぶ方式です。それは結果的に選ぶ数は一つでも構わないし、複数でも構わないということです。

「こういう類の選択肢も入れておきたい」とか、「こういう類のものは除外したい」という判断だけを社会的に反映させたいならば、認定投票が最適であろう。学会等の評議員選挙、多様な分野からの専門家を集める委員会の委員選挙、国会議員の選出などは、本来は認定投票によるべきだろう。(Kindleの位置No.846-853)

ですので、これは優勝を決める、というような類のものには向いていないでしょうね。例えばスポーツチームへ入団する者の選抜や、大学の推薦入試なんかは向いているかもしれません。

スピーチ大会での運用を考えると…

というわけで本書で書かれている「投票」の種類についてごく簡単に紹介しました。スピーチ大会にはどういった方法が向いているのでしょうか。

①の多数決方式はちょっと実践しにくいですよね。スポーツや芸なら一騎打ちでの勝ち負けを決めることは一般的ですので問題はありませんが、スピーチは一回きりの施行ですからね。

②の順位表点方式は悪くないかもしれません。とりあえず無難なものを選ぶということになりますからね。多くの人が納得しやすい方法でもあります。ただスピーチ大会というもののそもそもの性質を考えると「無難なもの」=「教育的なもの」が勝つことが多くなりそうな気もします(良いかどうかはさておき)。

③単記投票方式は、スピーチ大会の趣旨にもっとも合う方法かもしれません。もっとも素晴らしい一人のスピーチを投票するんですからね。ただ、問題点としては多くの場合スピーチ大会では2位以下も決めるのではないでしょうか(3位くらいまで?)。

そうすると、次点を2位・3位とするということになるでしょうが、例えば1位が飛び抜けていた場合などはその人に票が集中してしまい、2位や3位を決めることができません。特にスピーチ大会では審査員はそんなに多くないのが普通ですしね。そのあたりで実際の運用には問題が出てくると思います。もし最高の一人だけを決めるというのであれば、これで文句なしですね。

④の認定投票方式はやはり、優勝を決めるようなものには向きませんね。一次予選はこのような方法でいいと思います。

案を出してみる

実際のスピーチ大会の実施目的は千差万別だとは思いますが、最大公約数的には「日本語が上手」「おもしろい(興味深い、感動的なども含む)」ものを総合的に判断し1位から3位までを決めるというのがよくある形だと思います。

そのふわっとしたイメージを想定しつつ、私の考えを書きます。

●案1

各順位の投票を単記投票方式でおこなう。

これは、まず「第一位に該当すると思われる人を一人選んでください」という指示を審査員に出すというわけです。そこで最高得票になった人が優勝です。

その次に「第二位に該当すると思われる人を一人選んでください」という指示を出します。もちろん優勝者は除外になります。続いて「第三位に該当する人を…」とします。

問題は票が割れたときですね。例えば5人の審査員の票が第一位でこのように割れたとします。

A、A、B、B、C

参加者Aを第一位だと思う審査員が二人、Bを第一位だと思う人が二人、Cを第一位だと思う人が一人、という場合です。

オリンピックの開催地を選ぶ場合などは、下位を取り除いてもう一度多数決をしますよね。この場合だとCを上げた審査員にAかBに投票してもらうということになります。

例えばCを選んだ審査員がAに投票すればAの優勝は決定です。次はAを除いて同じ方式で2位を決めます。

でも、AABBCならいいですけど、もし仮に第一位を決める時に

A、B、C、D、E

のように全員の意見が割れた場合はどうするか。また、

A、A、B、C、D

のようになった場合はAを優勝とするのか?と考えると、事前に考えておくべき規則が複雑になりすぎますね。

●案2

④の認定投票方式で優勝から第3位までに入ってもおかしくない候補者を数の制限なく投票してもらう。その投票による上位3名を3位以内当確とし、その3人を対象として案1の順位別単記投票をおこなう。

お、これは悪くなさそうです。

●案3

②の順位評点方式をそのまま実行する。

これが結局最も楽なような気がします。この方式は「無難なものを選ぶ」ことになりますが、スピーチ大会は結構公チックなものが多いので無難なものを選ぶことにはクレームがつかないような気がします。

まとめ

というわけで、順位をつける方法についていくつか案を出してみました。

審査員はゲストが多い、ということを考えるとあまり複雑な方法は説明ばかり増えてしまうので避けたいところです。でも簡潔にしすぎると、優勝者の信憑性などが外部から聞こえてくることもありえます。そのあたりのさじ加減でしょうかね。

次の記事がシリーズ最後の記事になります。

日本語スピーチコンテストの審査方法について考える4

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です