カンボジアに来てもうすぐ1年半になります。私は日本語教育関係者なので日本語を勉強している人と接する機会が多いのですが、外に出るといろいろな言語で挨拶をされたり、声をかけられます。
私は主な移動手段としてトゥクトゥクを利用しているのですが、時としてドライバーが日本語や韓国語で挨拶をしてきます。個人的な経験としては日本語より韓国語で挨拶をされることが多いです。
Grabを使ったりすると利用者の名前が表示されるので、ある程度注意深いドライバーだと、名前を見ただけで利用者がだいたいどこの国の人であるか推測ができます。しかし「SAKUMA SHIRO」という表示名でも「アンニョンハセヨ」と言われたりします。あるときは自信たっぷりめで「韓国人ですよね?」と言われました。
そこで生じた疑問がこれです。
韓国語を知っている人の方が多いのか?
今回はカンボジアに限らず世界すべての日本語学習者と韓国人学習者を比べてみます。ただ、学習者数を調べるというのは容易なことではありません。そもそも統一した基準があるわけでもありませんし、そのような調査自体ありません。しかしいろいろな角度から数字を比較すれば、学習者の絶対数はわからなくても、おおよその人気度の比較は可能ではないかと思います。
JLPT VS TOPIK
日本語で最も有名な試験はJLPT(日本語能力試験)ですが、それに匹敵するのは韓国語ではTOPIK(韓国語能力試験)です。韓国語を勉強する人なら多くの人が目標とする試験で、その結果が留学や就職に大きな影響を及ぼします。位置づけとしては日本語におけるJLPTと同じようなものと考えて良いでしょう。
2018年度の統計を比較したのが以下です。
JLPT | TOPIK | |
年実施回数 | 2回 | 3回 |
受験国・地域数 | 86 | 76 |
志願者数 | 約116万人 | 約33万人 |
こう見ると、この項目では日本語の圧勝ですね。志願者数で3倍以上の開きがあります。しかし受験できる国や地域の数では近接していますね。
■JLPTの統計はここから
https://www.jlpt.jp/statistics/index.html
■TOPIKの統計はここから
https://www.topik.go.kr/usr/cmm/subLocation.do?menuSeq=2110107
Duolingoの学習者数
これは同じ基準で比べられる数少ないものかもしれません。外国語学習アプリDuolingoでの利用者数です。Wikipediaに結構詳しい統計的な結果が出ています。ちなみに、
目標言語をどの言語で学ぶか
というので利用者数を並べているんですが、「英語をスペイン語で学ぶ(2760万人)」という利用者が最も多いようです。
で、日本語と韓国語に話を限定しますと、
第06位 日本語を英語で学ぶ(643万人)
第12位 韓国語を英語で学ぶ(367万人)
第38位 日本語を中国語で学ぶ(95万人)
第61位 韓国語を中国語で学ぶ(56万人)
という結果ですね。やはりここでも実数としては日本語学習者の方がかなり多いですね。
■この統計はここから
https://en.wikipedia.org/wiki/Duolingo
初等・中等教育
小中高校でどれだけ学ばれているか、というのは割と追跡が楽みたいですね。日本では国際交流基金が3年に一度調査をしていますし(小中高だけではありませんが)、韓国でもその資料はかんたんに見ることができます。日本語は2018年、韓国語は2019年のものです。
日本語 | 韓国語 | |
学習者数 | 203万人 | 13万人 |
機関数 | 10416 | 1307(2016年) |
かなりの開きがあります。小中高の場合は、公教育でおこなわれていることが多いと思います。公教育への参入は時間もかかるでしょうし、かんたんではないでしょう。そういった意味で新興の韓国語とこれだけ開きが出たと言えるのではないでしょうか。
■日本語の統計はここから
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/result/survey18.html
■韓国語の統計はここから
https://news.korean.go.kr/index.jsp?control=page&part=view&idx=12805&preview=null
http://news.khan.co.kr/kh_news/khan_art_view.html?art_id=201710091032001
外国人労働者数
私のいるカンボジアではいわゆる送り出し機関がたくさんあります。そこでも日本語教育がおこなわれていますし、そこでカウントされる数も日本語学習者数に大きく影響を与えます。
ちょっとこの数字は参考までに見ていただきたいのですが、日本の外国人労働者数は約166万人(2019年10月)、韓国の外国人労働者数は148万人(2017年)です。日本の方が少し多いですが、そもそもの人口差(2倍以上)を考えると韓国の方が遥かに多くの外国人労働者を受け入れていることがわかります。
ただ、おそらく韓国の外国人労働者のうちの多くは朝鮮族系の中国人ではないかと予想されます。そのうちの多くは流暢な韓国語を話します(ネイティブですね)ので韓国語学習者にカウントできるかどうかに関しては議論の余地がありますが、とにかくここでは学問的妥当性を検討しようというものでもありませんので、参考値として載せておきます。
で、語学教育との関連なんですが、韓国側ではEPS−TOPIKという試験を実施しています。これは日本で言うなら技能実習生や特定技能のような感じの労働者の韓国語能力を判定するための試験です。これに合格しないとビザ下りないようです。日本では去年から特定技能向けのJFT−BASICが始まりましたが、それに類するものだと言ってよいでしょう。
韓国の場合、詳しく調べていないので明言はできませんが、労働目的の学習者のほとんどがEPS−TOPIKを受けるのではないかと思います。「聴解」と「読解」だけで計50分の試験のようです。TOPIKで代用できるのかどうかはわかりませんが、仮に代用できたとしても労働が目的であればEPS−TOPIKを受けるのではないでしょうか。私もTOPIKを受けたことがありますが、試験自体ががっつりしていて受けたあとはかなりぐったりしますからね。
となると、JLPTとTOPIKは受験者数に大きな差が出ましたが、こういうのも含めて考えると両言語の差はもう少し縮まるのかな、とも思います。EPS−TOPIKの受験者数の統計があればいいなと思ったんですが見つかりませんでした。
■日本の統計はここから
https://www.jcci.or.jp/news/trend-box/2020/0204114841.html
■韓国の統計はここから
http://nationalatlas.ngii.go.kr/pages/page_1923.php
■EPS−TOPIK
http://eps.hrdkorea.or.kr/epstopik/home/main/mainPage.do?lang=ko
まとめ
というわけで、非常にさらっとではありますが、世界の日本語学習者数と韓国語学習者数を比べてきました。とりあえず今のところは
かなり日本語学習者の方が多い
ということがわかると思います。ただ、韓国側も積極的に外国人労働者を受け入れていますし、聞くところによると労働者として行くなら韓国のほうが待遇が良いという話もありますので、そのレベルでの学習者は韓国語の方が人気があるかもしれません。
あと韓国語の方は、よくわからないんですけど、世宗学堂という韓国語教育や韓国文化を世界に広めるための機関があり、それがここ数年着実に増えているらしいんですよね。中国語でいうところの孔子学院でしたっけ?そんなものでしょうか。つまり、国が本腰を入れてこの事業をおこなっているということです。
サブカルチャーの浸透もあると思いますけど、やはりK−popは強いですね。うちの近くの公園で若い人がダンスの練習をしてたりするんですけど、その音楽はほぼ韓国のものです。日本語の歌が聞こえるのは日本系の飲食店くらいなものでしょうか。
まあ、同じ東アジアの言語として、お互い切磋琢磨して世界で広く受け入れてもらえたらいいなと思います(ってどんなまとめなんでしょうか)。
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