石黒圭編著(2019)『日本語教師のための実践・読解指導』くろしお出版
タイトル通りの本です。「読解力を高めるには?」「読解の授業ってどうするの?」に対する現実的なソリューションを提供してくれます。
大きく「第一部 個別指導編」と「第二部 教室活動編」に分かれています。
第一部では、読解活動において学習者がどこでつまづくのかについて観点別・母語別に書かれてあり、第二部では第一部の内容を踏まえた上での具体的な教室活動の実践方法について書かれています。
以下、私がマークしたところの引用をしながらこの本の紹介をしたいと思います。
序章
いわゆる4技能の中でも「読む」授業は比較的楽におこなえる、と著者は言います。
「読む」授業にかんしては、テキストがあれば何とかなります。学習者たちに音読してもらい、意味を確かめ、文法を確認すれば、読解を教えている気になれます。(p4)
また、特に学習者の母語話者の先生なら、日本語の文章をその言語に翻訳することで意味を簡単に伝えられますし、学習者に母語への翻訳させることで学習者の理解度をチェックすることも容易にできます。しかし学習者が母語に翻訳する際に問われているのは「読解力」ではなく「翻訳力」だと著者は言います。
読解力に直結するのは読み取れた内容そのものであり、それは心の中にしかありません。作文力、聴解力、会話力と違い、読解力だけは目に見えないのです。(p4)
そうです!これが「読解授業の難しさ」の所以なんですね。「読解授業の難しさ」の理由をこれほど適当な言葉を使って適当に言い当てた文章はないのではないでしょうか。その難しさをどうやって一つずつほぐしていくのか、非常に楽しみな序章です。
第一章 個別指導編
誤読を減らすために一つできることは、純粋に読む経験を増やすことです。(p27)
当然と言えば当然です。読解(語学学習)に王道なしですね。しかし、
たくさん読むだけでは文法的な読解能力が習得できるとは言えません。具体的な「読解のための文法」の指導が必要です。(p60)
「読ませるだけ」ではいけないみたいですね。では、どのような文を読ませるのがいいのかというと、
文法のことは考えずに、学習者が読みたいと思う、生の文章を取り上げるのがよいでしょう。(p61)
「文法指導は必要」だが、学習者の読みたいものが何よりも優先されるわけですね。でも、↑で「文法の指導が必要」って言ってましたよね。
文法のことを考えて文章を選ぶのではなく、その文章の中に文法的に理解しにくい表現が出てきたら、それについて説明し、指導するということです(p61)
第一章では、他にもいろいろなことが書かれていますが、私が読解活動に関してここから抽出した結論としては、
学習者それぞれが興味のありそうな生の読み物をたくさん読ませる。そして、つまづいたところ(つまづきそうなところは)解説をする。
といったことでしょうか。これに100%同意します。私の読書活動なんか考えても、まず興味のないものは読みませんからね。興味がなかったり、必要がない文章を読むのは苦痛でしかありません。
「苦痛で人は成長する」というマゾ体質の人はそれでいいかもしれませんけど、私は好きなものだけ読んで生きたいですね。私自身が好きなものしか読まないのに、ましてや外国語でそれを強要するようなことなどほとんど嫌がらせなのではないかと思います。
ただ、問題は初級レベルでは「生の読み物」ってあんまりないんですよね。でも、学習者用にリメイクされた「生」の読み物も探せばあります。
今私が受け持っているクラスは初級の後半くらいなんですが、ときどき「やさしい日本語ニュース」をシェアします。以前マンガの「ワンピース」関連のニュースをシェアして読んでもらったときは食いつきが違いました。読む気にならないと読めないですよね。外国語でも母語でも。
第二章 教室活動編
ここは、これから読解の授業を実際にやろうとしている人には超役に立つのではないかな、と思います。読解活動で一時流行ったり、今でも行われていたりする活動の進め方が具体的に提示されています。反転授業、ピアリーディング、ジグソーリーディング、多読などなど。
余談ですが、ジグソーリーディングなんかは私の失敗例が役立つかもしれません。
そんな素晴らしい実践報告が多い中、私が最もおもしろい!と思ったのは「第11章 速読の教室活動」です。
速読というと、スキミングやスキャニングという言葉が思い出されますが、そういった速読のノウハウを実践を通して身につけさせようとする授業の報告です。
おもしろいのが、授業と授業の間の宿題です。その宿題とは…
立ち読み1 ①5分で新書2冊を選択 ②10分で2冊の概要をつかむ(読むより見る感覚。メモなし) ③帰宅後、10行で文章化(p188)
書店にとっては超迷惑。
でも、すんごいやってみたい!授業ではその宿題と関連したような講義や活動をするようです。回が進むと、宿題も難しくなります。第7回目の授業の宿題はこれ↓
立ち読み7 ①5分で新書1冊選択 ②15分で概要把握 ③1章だけ選び20分で内容把握 ④帰宅後、内容をA4で1枚にまとめる(p190)
長々と書店で立ち読みさせて、本屋にとっては非常に迷惑な宿題ですが、おもしろそうですよね~。
この本を読みますと、当然その理論的な解説などもっと詳しいことが書いていますので、ぜひ読んでみてください。
まとめ
というわけで、非常に簡単ではありますが、私が気に入った部分を紹介させていただきました。実践報告の多くは大学のような教育機関での実践のようで、なかなか語学スクールや、その他の教育機関では実践が難しいかもしれませんが、アレンジ次第でどのような現場でも使えると思います。ヒントにはなるでしょう。
著者は最後にこう書いています。
教師は、学習者に何を教えるかではなく、学習者に何を経験させるかを明確にして授業に臨む必要があります。そうした意識があれば、読解授業が「教科書を教える」場ではなく「教科書で教える」場、つまり、文章の内容を読む場ではなく、文章の読み方を学ぶ場におのずと変わります。読解授業が自分の読み方の可能性を広げてくれる場であれば、学習者は喜んで読解授業に参加するようになるでしょう。(p239)
本当に、その通りですね。学習者の読み方の可能性を広げるような授業をやってみたいものです。
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