再話
みなさんこの言葉聞いたことありますでしょうか。私も前から気になってはいたんですが、このたび↓本を読みました。小河原義朗・木谷直之(2020)『初中級からの読解 読んで理解したことが伝えられるようになるために』凡人社。
↑この本では「再話」という教室活動について、実に親切に細かく紹介がなされています。もちろんこの活動を、紹介されている通りに授業に取り入れられるかは、勤務している学校や学習者の種類によって変わってくるとは思いますが、活動の一つとして知っておくことは有意義なことだと思います。
以下、私がこの本を読んで知ったこと、思ったことなどをつらつらと書いていきます。
再話とは
まず再話とは何かという話ですが、
ストーリーを読んだ後に原稿を見ない状態でそのストーリーの内容を知らない人に語る活動(p7)
と定義されています。特にこれは日本語教育の文脈だけで使う用語ではないようです。この本では再話というやり方を初中級から(初級が終わったくらいから)の読解力の向上のために取り入れる方法について説明しています。
読解の授業と言うと、何らかの文章を読んで質問に答えるというやり方が一般的だと思います。もちろん質問にちゃんと答えられればその部分は分かっているということにはなりますが、まぐれ当たりということもあるし、大意を理解してるかどうかはよく分からないということもあるでしょう(つまり学習者が何を理解して、何を理解していないかを知ることが難しいということですね)。
そこで再話なのです。再話という方法をとれば、
文章を読んで理解できたかどうかは、読み手による表出によって確認されます。読み手は、他の人に伝えたい内容を、文章中の「他者のことば」と、「自分のことば」を統合させることによって、再構築して表しています。(p14)
ということです。
学術的には「この活動は意味があるのか」「この活動はどういう能力を強化するのか」「どういうやり方をすればどういう能力が強化されるのか」という点を突き詰めていかなければならないとは思います。が、まあ我々言語教育の従事者から見ると、「読んで、頭の中で整理して、それを自分の言葉で話す」という活動が言語習得に役立たない訳はないということは直感的に理解できますよね。
再話のやり方
で、非常に面白そうな再話なんですが、我々現場にいる者にとってはそれをどう授業に取り入れるかというところが最も気になるところです。
本書には再話の取り入れ方について非常に詳しい記述があります。それについては本を購入してゆっくり読むのが一番いいと思いますが、その概略だけここに書いておきます。もちろん「再話はこのようにやらなければならない」ということではなくて「この本に書いてある再話のやり方」です。
①[個人活動]一人一人が素材を3から5分で読む。
②[ペア活動]ペアになり「読んだ内容を、その内容を知らない人に話す」という想定で、素材を見ずに交互に伝え合う(5分程度)。
③[ペア活動]ペアで話し合って各素材の内容理解確認問題に答える。
④[クラス活動]クラス全体で内容理解確認問題の回答を確認する。
⑤[クラス活動]素材の内容についてディスカッションする。
p25より抜粋。基本はこれですね。
もちろんこれだけで授業に取り入れられる人はなかなかいないと思いますが、本書では例えば②のペア活動の部分のステップの踏み方や、再話を中心とした授業の1学期の計画の取り方などの例が詳しく書かれています。
また再話の活動に付随して、「漢字クイズ」「要約課題」なども出すそうですがそれについても詳述されています。あんまり詳しく書くと怒られるかもしれない(笑)のでこの辺にしておきますが、もし私が大学で読解の授業を担当するなどということになったら、きっとこの本の通りに1学期の構想を立てるのではないかと思います。
それだけ詳しく書かれているし、そもそも書かれている活動は著者陣が数年にわたって色々な試行を重ねてきた上での一つの結論ですから、かなり完成度が高いものとなっています。もちろん我々がそれぞれの場で実際にやってみると、本の通りにいかないとかまた違った問題点は出てくると思いますが、その辺りは経験や想像力を最大限駆使して自分の環境でやるにはどうすればいいかを考えつつやってみれば良いでしょうね。
付録として、授業で使える読解の文章も40個も載せられています。素晴らしい!
同じような活動
本書で紹介されている再話の活動は「日本語の文章を読み、日本語で再話をする」というのが前提になっていますが、環境によってはこれを変えることによって、また違った能力が育つ活動に変化させることもできるのではないでしょうか。
例えば私は以下のような活動をやっていました。
「母語の文章を読み、日本語で再話する」
少人数のクラスでやったことがあるんですが、これは結構面白かったです。設定としては、学習者の母語がわからない私に対して、なんとか自分の日本語能力を駆使してその内容を伝えるということですね。
もちろんこの方法でやると、「本書で書かれている再話」によって伸ばされる能力とは違いが出てきます。少なくともインプットは母語なのですから、読解力の向上には役立たない。でも自分の言いたいことを言いたいように話していては、課題文の内容を相手(私)に伝えることはできませんから、日本語アウトプットの強化につながるでしょう。また、こちらから課題文を与えることによって考えもしなかったトピックに接するわけですから、それを日本語でどのように言うかを調べたりして、語彙力の向上につながることも予想できます。
またもう一つ考えられるのは、
「日本語の文章を読み、母語で再話する」
ということでしょうかね。やったことはありませんが、これも面白そうですよね。少なくとも日本語でアウトプットしなくていいので学生側の心理的負担はかなり下がるのではないでしょうか。
ペアになって今しがた読んだ日本語の文章について二人で確認をしていくという作業になると思いますが、「再話」という枠組みを取ることによって、読解の活動が活性化されるような予感はします。もちろんこれはインプットの強化につながるでしょう。
…というわけで本書では書かれていない活動についてちょっと書いてみましたが、海外の(学習者同士が母語を同じくする)日本語教育現場で再話を取り入れる場合には、このような活動も入れてステップを踏むということは十分あり得るのではないかと思います。
ペアの組み方
あまり長くなるとあれなので、一つだけ面白かった部分を紹介します。
この再話活動はペアでやる部分が多いのですが、その組み合わせをどうするか、という考察があります。結論から言うと、
学習者の好きにさせる
ということなんですが、これはこれで潔いな、と思いました。
学習者の多様性を考え出すとキリがありませんし、どんな組み方をしても学習者からの不満は必ず出てきます。これらをすべて配慮して毎回ペアを作るのは実際にやってみるとほとんど不可能です。(p130)
だから、結果的に一学期ずっと同じ人でやってもいいし、毎回変わってもいいというんですね。これくらいスパッと言ってくれると助かりますね。
学習者が気持ちよく再話活動を楽しむことが最も大切だと思います。(p131)
なるほど。確かにそうですね。「気持ちよく楽しめない」状況が生まれたときにだけ教師は介入していけばいいのでしょうね。これは再話だけじゃなくて、他のペアやグループワークでもそうかもしれませんね。
まとめ
というわけで本日は最近読んだ「再話」に関する本をご紹介するとともに、その周辺的なことを少し書いてみました。
「再話」「読解」というタイトルを冠した授業を受け持たなくても、いくつかあるうちの教室活動の一つとして、ピンポイントで再話を取り入れることもできると思います。また学習者同士の再話の録音記録(文字起こししたもの)が詳細に示されていて、読み物としても面白いです。是非気になる人は読んでみてください。
それと蛇足になりますが、この本の著者のお二方とは、オフラインでも面識があります(相手が覚えているかどうかは別として)。私は隠れキャラなのであんまりオフラインで会ったことがあるという人はいないんですけれどもね。
小河原先生は、私が東北大学の日本語教育学研究室にいた頃の助手でした。ただ私は当時学部2年生だったのであまり直接話をするということはありませんでした(雲の上の人ですよね)。当時は文学部内対抗のソフトボール大会(あれ?野球だったか?)があったりして(今もあるんでしょうか?)、そこで活躍する小河原さんの姿は今でもよく覚えています(ソフトボール(か野球)に一生懸命だった人という印象が最も強いです笑)。
木谷先生は、国際交流基金の派遣前研修でお世話になりました。グループで発表をするというタスクがあったんですがその時の指導教官的役割が木谷先生でした。短期間で発表をまとめなければならないということでグループ内での議論は迷走したのですがそれをうまくまとめてくださったのが木谷先生です。口を出しすぎるわけでもなく大事なところでボソッと一言アドバイスを頂いたことをよく覚えています。
というわけで珍しく私がオフラインで出会ったことがある方々の著書なので、一生懸命読ませていただきました。
以下、読解関連の過去の記事もよろしければお読みください。
■レビュー『2分で読解力ドリル』
■ジグソーリーディング失敗の巻
■「初級の読解について考える」ビデオ&スライド